学生時代の“怒り”が
サービスの原点に

「FRIENDLY DOOR」はキョウ氏が自ら発案したサービスでもある。その発想の原点は、自身の経験と深く関わっているという。

「私は中国で生まれ、幼い頃に日本に渡ってきました。中国国籍なので、私も住宅弱者のカテゴリーに入りますが、学生時代まで実家に住んでいたので、住まいに困ったことはなかったんです。ところが、私と同年代のいとこが留学生として来日し、部屋探しを手伝った際に“入居差別”を経験しました」

 物件を探し始める前から「留学生は保証会社を利用できない可能性が高い」と予想していたキョウ氏は、事前に日本人の親戚を保証人に立てて不動産屋に足を運んだ。万全を期したにもかかわらず「中国の留学生は難しい」との返答のみで取り合ってもらえなかった、と振り返る。

「いとこは日本語の会話も不自由なくできますし、経済的に困窮しているわけでもない。なにかあれば、日本の文化を理解している私がサポートすると交渉してもNGでした。2009年当時、政府は『留学生30万人計画』を掲げていましたが『この状況では、途方に暮れる留学生が増えるだけだ』と、強い憤りを感じましたね」

 その後キョウ氏は、自宅近くの不動産会社を10店舗以上訪問。外国籍の入居希望者の対応について話を聞いた。

「当時は、住宅弱者という概念すらも存在していなかったので、インターネットで検索しても情報はあまりなく、自分で調査するしかありませんでした。ヒアリングの結果、外国籍の人はなかなか部屋を貸してもらえない、という実態が見えてきたんです」

 当時就活中だったキョウ氏は、その調査結果を持ってLIFULLの入社面接に向かった。創業者(現会長)の井上高志氏を相手に「外国人のサポートサービスをしたい」とプレゼンしたという。

「面接では『不動産会社に入社しても同様の支援ができるのでは』と突っ込まれました。しかし『不動産会社に入社して解決できるのは、私の目の前の人だけです。根本的な課題を解決するためには、日本の不動産業界全体の価値観を変えなければならないので、社会課題解決を目指し、不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S」を運営するLIFULLでなければ実現できない』と答えたところ、その切り返しが“面白い”との評価を得て内定がもらえたそうです(笑)。LIFULLはもともと『事業を通して住まいの社会課題を解決する』という理念を掲げて、井上が立ち上げた会社でもあるので、私のプレゼンにも共感してもらえたのだと思います」

 LIFULL入社後、キョウ氏は営業や企画、国際事業部などさまざまな部署で経験を積んだ。そんな折、仕事で関わった障害者の入居を支援するNPO法人の担当者から「部屋を探してくれる不動産会社が見つからない」との悩みを聞き、外国人に限らず、より幅広いバックグラウンドを持つ人を対象にしたサービスを思いついたという。