忍者たちがはまった
「現状維持の罠」とは?

 失敗の要因は何であったのだろうか。

 第一に、構造的な欠陥が指摘できる。忍者は各地の大名に戦いのため雇われ、報酬を受け取った。つまり、乱世が終わって天下が統一されると仕事にありつけないのである。

 海賊大名たちがそうであったように、環境が変化すればそれまでの収益構造も変わる。天下統一という機運の中で「合戦市場」が縮小し、忍者たちの活躍の場は失われていったのである。

 失敗の第二の要因は、戦略の欠如である。もっともわかりやすい例は、情報。忍者は、その営業項目として「情報収集」があるにもかかわらず、第一の要因のような天下の趨勢を理解していなかったということになる。彼らの情報収集能力に問題があったのであろうか。

 そうではあるまい。忍者が主として収集した情報は、短期的で局地的なものであったと考えられる。

 他の大名家のために働くということは、つまりそこで合戦が近いということ。目前の合戦に勝つには、手近な情報が重要視される。敵の決戦勢力はどれくらいか、敵の城や陣のどこに火を付ければ効果的か、合戦予定地はどこか等々。

 報酬を得るための情報収集だから、こうした目前かつ局地的な情報が重宝したであろう。だとすると、伊賀にせよ甲賀にせよ、自分たちが生き残るための情報収集はどれほどの優先順位であったか。

 すでに勢力を増していた織田信長の情報が、忍者の情報網に相当数上がっていたことは想像に難くない。だが、情報収集の目的は雇ってくれた大名が合戦に勝つためであって、自分たちの未来に対する情報収集ではなかった。

 情報には3つの不思議がある。

1つ目は、自身に不利な情報が軽視される不思議。
2つ目は、情報を集められるのに生かせない不思議。
3つ目は、情報が全体に行き渡らない不思議。

 この3つは、ある1つの欠陥が原因で起きる。それがつまりは戦略の欠如である。

「現状維持の罠」、と言い換えてもいい。いまのままを維持しよう、という考えでは、長期的な戦略は立てにくい。来たる新時代に成長しようと志すから、人も組織も活性化し続け、視野が広がり、洞察は深まるのである。むしろ、そうしてこそ現状を維持できると言ってもよい。

 忍者は、下請に徹することで現状維持の罠にはまり、多くの情報に接しながら対処を誤った。