書影『40歳だけど大人になりたい』『40歳だけど大人になりたい』(平凡社)
王谷 晶 著

 酒が入らなきゃ話せないことは話さないほうがいいし、酒が入っててもやっちゃダメなことはやっちゃダメだ。酒は文字通り、大人の飲み物で、酒で極端にコントロールを失ってしまう人は飲んじゃいけない。大酒飲みだったころの私は「酒が悪いんじゃない、私が悪いんだ」と言いながらへらへらしていたが、酒飲みのそういう言い訳もまことにダサいし痛い。かっこつけてるつもりなのか?(つもりでした)

 昔に比べれば、「酒が飲めないやつは半人前」みたいな価値観も減ったと思う。仕事の付き合いで酒が必須という業界はまだあるだろうけど、それも徐々に過去の遺物になっていくだろう。私の周囲にも酒が飲めない・弱い人が大勢いる。というか、本来ヒトのデフォルトってそれくらいのラインなんじゃないだろうか。あんな刺激の強いものを嗜好してばかすか飲める個体のほうがイレギュラーだ。飲み過ぎるともちろん身体に悪いし、あと金もかかる。

 余談だけど、日本食って基本的に酒に合わせるようにできてるよね。なので美味しいものを追求すると酒に行き着いてしまうのは分かる。飯の味を殺さない程度にほどよく飲めばよいのだ。フランス料理やイタリア料理も古典的なレシピはワインとセットが前提だ。酒によって発展してきた文化というのは確かにある。でも趣味でカレー(インド料理)作るのにしばらく凝ってたんですが、酒を必要としないレシピだなあ(料理にもほぼ酒を使わない)ということに気付いて面白かった。酒なしでも文化は回る。

だが私は酒を飲む、だから
ダサくていいから酔わせてくれ

 最近の若いもんの間では「しらふでいるほうがクール」という価値観もあるらしい。立派だ。見習いたい。けど、「ダサくていいから酩酊させてくれ」という自分もいる。前に一切酒を飲まない父に「どうしてお酒なんか飲むの」というハイパーシンプルな質問をされたことがあるのだが、酒を酔うまで飲むやつは、失いたいんだと思う。自分を。もちろん、褒められることではない。いつか私もこのライナスの毛布のような酒瓶と決別することができるのだろうか。

 酒を飲まずに生きていけるようになった時こそ、ほんとうに成人を迎えた気分になれる気がする。