こっちの雑誌って、コーディネート指南とかないのね
小悪魔ギャルの同僚ソフィアは、事務連絡以外は口もきいてくれません。私は何かにつけ、上司のアシスタントをしている年上のヤスミナを頼ることになりました。物腰も話し方も穏やかなヤスミナは私の心のオアシスでした。
モロッコ系のフランス人である彼女はフサフサとした黒髪とエキゾチックな目が特徴的です。ちょっと真似できないような個性的な服を選び、斬新な組み合わせをしています。それがまたお似合いなのです。
ある日、ヤスミナがファッション雑誌をペラペラとめくり、自社製品が掲載されているページに付箋をつけていた時のことです。隣に座り込み、息抜きに別の雑誌をめくっていた私はふと気づくことがありました。
「こっちの雑誌って、コーディネート指南とかないのね」
「何それ?」
そう言って首を傾げるヤスミナに説明するため、私は広告チームのオフィスに走りました。世界中の雑誌が置いてある部屋です。日本の女性誌を拝借してめくると、ありました、ありました。我々がよく目にする、洋服やアクセサリーをどのように着回すか、親切丁寧に説明する「1週間のコーディネート」ページです。
人が着ているモノは絶対に着たくないわ。私じゃなくなっちゃうもの
それを見せると、ヤスミナは目を丸くして言いました。
「なんだか教科書みたいね!」
こんなモノ参考になるのか。日本人女性は本当にその通りの恰好をするのか。みんな同じような服装になってしまわないのか。立て続けに聞かれた私が答えに詰まっていると、ヤスミナはさらに言いました。
「私だったら、人が着ているモノは絶対に着たくないわ。私じゃなくなっちゃうもの」
そう断言して仕事に戻ってしまいました。
同僚の服装を真似ることに専念していた私にはグサッと来る言葉でした。ヤスミナが魅力的なのは、人と違うからです。「自分じゃなくなっちゃう」とはっきり言うことができるのは、「自分らしいスタイル」をよく理解しているからです。比べて私はどうでしょう。
私達は深く考えもせずに「雑誌に出ていたから」という理由で服装を選んだりします。「人気のあるブランドだから」、あるいは私のように「オシャレなあの人が着ていたから」と人真似をしてしまう人もいるかもしれません。なぜかと言えば、それは「これなら間違いない」という安心感があるからです。つまりそれは当たり障りのない恰好なのです。
それは確かに無難な選択肢かもしれませんが、それでは決して自分らしさを追求することにはなりません。
「自分らしいスタイル」とは何?
では、ヤスミナの言う「自分らしいスタイル」とは何なのでしょう。何をもって「自分らしい」と断言することが出来るのでしょう。そしてそれは、どうすれば見つけ出すことが出来るのでしょう。
ファッション業界に飛び込んだ私は、意外な人達からその秘訣を学ぶことになるのでした。
※本稿は『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。