【マンションで上の階から水漏れ】知らないと絶対損する「トラブル回避術」
本連載の著者は棚田健大郎氏。1年間必死に勉強したにもかかわらず、宅建試験に落ちたことをきっかけに、「自分のように勉強が苦手な人向けの方法を編み出そう」と一念発起。苦労の末に「勉強することを小分けにし、計画的に復習する」しくみ、大量記憶表を発明します。棚田氏の勉強メソッドをまとめた書籍、『大量に覚えて絶対忘れない「紙1枚」勉強法』の刊行を記念して、棚田氏の寄稿記事を公開します。

【マンションで上の階から水漏れ】知らないと絶対損する「トラブル回避術」Photo: Adobe Stock

マンション保有者が絶対に知っておくべきこと

 ある分譲マンションで、201号室から101号室に水漏れが発生しました。分譲マンションなので所有者は違いますが、両方とも賃貸に出していて賃借人が居住しています。

 101号室からの通報で発覚したので、すぐに201号室に調査のため入ろうと連絡をしたのですが、賃借人が捕まらなかったため、調査に入れません。

 調査協力と修繕をするための立ち入りをお願いしましたが、なんと賃借人が拒否。元栓は閉めておいていいが、立ち入りは拒否してきたのです。

 この場合、どう対処しますか? もちろん宅建試験の知識を使います。

賃貸物件の修繕義務とは?

 そもそも賃貸物件の修繕義務は賃貸人が負っています。民法で「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定められています。

 ただ、現実問題として、賃貸人が賃貸建物の修繕をするためには、賃借人の使用部分に立ち入らなければならないことがあります。今回もそうです。この場合、賃貸人はあらかじめ、賃借人に対して連絡をして賃借人立ち会いのもと修繕工事に着手するのが一般的です。

 通常はすぐに協力するのが一般的ですが、中には使用状況を他人に知られたくない、など何らかの理由で立ち入りを拒否する賃借人がいます。この場合に法的にどう対処するかがポイントになります。

賃借人の義務とは?

 賃貸人は修繕義務を負っていますが、これは見方を変えれば、賃貸建物に水漏れなどが発生した場合に、これを放置すると、被害が拡大して賃貸建物自体の経済的価値が減少するなどの損失を賃貸人が被ることを意味しています。

 要するに、賃貸人は修繕義務は義務であると同時に権利でもあると捉えることもできます。そこで民法にはこういう条文があります。賃貸管理や営業やっている人は絶対に覚えておいてください。

民法606条2項
賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

 これを賃借人の「修繕認容義務」といいます。もし賃借人が修繕を渋ったら、この条項があるという認識のもと、強いトーンで協力するよう促すトークが求められます。「お願いします」という低姿勢なままだと、この重大性が伝わりません。

それでも賃借人に拒否された場合

 それでも賃借人が協力しなければ、勝手に入って修繕できるのかというと、法的には難しいです。賃借人が拒否している状況で立ち入れば、自力救済に当たり違法行為になってしまいます。さて、どうすればいいのでしょうか。

 まず、拒否の理由を聞き出すことが重要です。立ち入りを拒否する人には理由があります。

①何らかの理由で見られたくない
②忙しくて立ち会っている時間がない

 大体このどちらかです。

 ①だった場合は、もうどうにもならないので、取るべき手段としては賃貸借契約の解除です。賃借人があくまでも賃貸人の修繕に応じない場合には、賃貸人は建物を保存するのに必要な工事をすることができません。

 このような修繕容認義務違反を理由に賃貸借契約解除が認められた判例もあるので、その方向で進めることになります。ただ、時間がかかります。半年くらいかかるので、できれば避けたいです。また、修繕容認義務違反で解除が認められるためには、以下の要件を満たしている必要があります。

要件A 修繕義務が発生しているか?

 解除が認められるのは、修繕をしないと契約の目的に応じた使用収益に支障を来すような場合です。ですからちょっとした修理などでは解除は認められません。具体的な線引きは裁判にならないとなんとも言えません。

要件B 修繕工事が必要最小限か?

 賃借人にとって迷惑なことは変わりないので、賃借人の賃貸建物使用の必要性に配慮した修繕計画に基づく工事内容じゃないと認められません。

 なお、拒否の理由が「②忙しくて立ち会っている時間がない」だった場合、賃借人了解のもと本人の立ち会いなしで入室して修繕工事をするという選択肢があります。

 もちろん了承が取れればの話です。この場合、ちゃんと合意書などを交わしておかないと、後でトラブルになりがちです。本人了承のもと作業状況をノーカットで動画を回すこともあります。これは、物がなくなった、壊れたなどのクレームを封じ込めるためです。現実的にはこの方向での解決が一番早いですが、面倒ですね。

 賃貸人の義務が試験にはよく出るのですが、実務ではこのトラブルのように「賃借人の修繕容認義務違反」で困ることが発生します。全国の賃借人の皆さん、修理に協力するのは賃借人の義務です。