「職場がツラい」をトラウマにしない。精神科医からの3つのアドバイスがあります。
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)

「会社に来なくていいよ」「こんな簡単なこともできないの?」…。職場がツラいのをトラウマにしない、精神科医からの3つのアドバイスPhoto: Adobe Stock

つらい暴言がトラウマになる

「お前なんて会社に来なくていいんだよ」
「こんな簡単な仕事もできないの?」

 これらは令和の現代において、ある会社でハラスメントと認定された言葉です。
 以前に比べて職場のメンタルヘルスへの意識は向上していますが、それでも会社という組織では上下関係が生じやすく、ときに暴言や暴力が発生してしまいます。

 これらの恐怖体験があったとき、さまざまな対処を行って問題が解決した後でも、そのときのことをとっさに思い出してしまったり、新しい仕事を始めてもうまくいかなくなってしまうことがあります。
 このような恐怖体験が一種の「トラウマ」になってしまい、その後の人生に大きな影響を及ぼすこともあります。

「トラウマ」は強い衝撃で心に深い傷を負うことを意味する言葉で、日常では体験することのない火事や自然災害、事件などの「非日常体験」によって生じるものですが、職場での暴言やいじめなど、あなたが想定しうる「日常」を超えるような脅迫や恫喝といった「暴力」や「暴言」もまた、非日常体験としてトラウマになってしまいます

 そんなつらいことを後に残るトラウマにしないためのアドバイスをいくつか紹介します。

1. 「日常」を意識すること

 トラウマは日常から離れた非日常体験によって生じやすいです。

 そのため、「あなたにとっての日常」を意識しましょう
「社会人ではこのくらい当然だ」と無意識にも基準を作ってしまうことがありますが、怒鳴られたり怒られたりと、あなたが非日常と感じた体験は心の傷になってしまいます。

 人間は安心感や安全と感じられる環境を日常と感じるものですので、あなたにとっての当たり前の日常を意識しましょう。

2. 恐怖体験への対処法を学んでおくこと

 現代社会で生きる上ではどうしても恐怖するような体験は起こります。

 そんな恐怖体験も「対処できる」と感じるようになることで、影響を抑えることができます。

 方法はさまざまですが、恐怖体験の影響を減らすために、瞑想やマインドフルネスを日常に取り入れて意識を集中させることで影響を抑えることができます。

 それ以外にも、仕事以外の時間を充実させて恐怖心を和らげる、家族や友人など親しい人に感情を吐き出す時間を作るなど、恐怖体験を溜め込んでトラウマにしないための対処法を自分の中に用意しておくことで、非日常への不安を減らすことができるでしょう。

3. ガマンしすぎないこと

 恐怖体験は積み重ねによってより深く記憶に定着してしまいます。

 小さな傷も何度も負うことで深く治りにくい傷になるように、人間のトラウマも恐怖体験の積み重ねによって生じやすくなります。
 それを溜め込まないように、前述した対処法によって影響を抑えるといいのですが、対処しきれない恐怖心が積み重なると、深く治りにくいトラウマが生じてしまいます。

「周りに迷惑をかけられない」「辞めるまでは働かないといけない」など、恐怖心をガマンして苦しい気持ちを長引かせてしまうほど、後々の人生において深い影響を及ぼす恐れがあるので、トラウマにしないためにガマンをしすぎないことを意識しましょう

 人間は「恐怖を学習する」生き物です。
 もう同じ恐怖体験や危険に遭わないように学習することで、危険を事前に察知することができるようになりました。

 しかし、強烈すぎる恐怖体験は強すぎる記憶として深い傷として心に残ってしまいます。
 人間の心も身体と同じように、傷つきすぎると跡になって残ってしまうため、できるだけ傷が浅いうちに対処することを意識してください。

(本稿は、頭んなか「メンヘラなとき」があります。の著者・精神科医いっちー氏が特別に書き下ろしたものです。)

精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。