7月中旬まで祝日がなく、天気もぐずつく日が増えるこの時期は、何かとストレスがたまりやすい。新年度からの仕事に慣れなかったり、職場の人間関係がうまくいかなかったりして、「会社に行くのが憂鬱だなあ」と思っている人もいるかもしれない。しかし、悩みを一つひとつ解決していけば、意外にスッキリと心が晴れていくものだ。
そこで今回は、2023年ベストセラーランキングビジネス書部門で1位(日販/トーハン調べ)となり、「もっと早く読んでいればと後悔すらした」「ぶっ刺さりすぎて声出た」と反響を呼び続けている『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉さんと、『「言葉にできる」は武器になる』の著者・梅田悟司さんに、「信頼される上司」になるためにとるべき行動について聞いてみた。(構成/根本隼)
最初から部下を見てはいけない
Q. 春から管理職になりました。これまで部下を持ったことがなく、どう立ち回ればいいかわかりません。「信頼される上司」になるには、どうしたらいいでしょうか?
安達裕哉(以下、安達) 私も、初めて管理職になったときは、「どうやって部下を使えばいいんだろう」と毎日迷いっぱなしでした。
梅田悟司(以下、梅田) 管理職デビューから間もないうちは、気合が入りすぎて「空回り」してしまうんですよね。しかも、部下の人数が少ないほど、全員の顔が見えやすいので、かえってマネジメントしづらくなる側面もあります。
安達 私もそれに近い状況でした。個人的には、少し意外かもしれませんが、「最初は部下を見ない」ことが管理職にとって重要だと考えています。
会社がある人物を管理職に抜擢するのは、「この人なら成果を出してくれそうだ」と判断しているからです。なので、部下を見ることではなく、成果を出すための「目標を決めること」からスタートすべきなんです。
目標が定まった時点で初めて、それを達成するために「誰にどの仕事を割り当てるか」や「どのタイミングで仕事を頼むか」などと部下のことを考える必要が出てきます。
梅田 僕もその通りだと思います。チームとしての目標がない状態で、部下に気に入られようとしても、軽く見られるだけですからね。
安達 そうですね。部下も、上司が迎合してきている雰囲気には非常に敏感で、すぐ見抜いてしまいます。なので、部下に気に入られようと思ってとった行動が逆効果になって、結果的にナメられるだけで終わるという残念なケースが多々あるんです。
一目置かれるには、達成すべき目標から逆算したタスクを明確に示すしかありません。
意思決定に部下を参加させる
梅田 部下のコミットメントを確保する手法として、医療界で注目を集めている「Shared Decision Making」(SDM)という考え方も有効かもしれません。これは、簡単にいうと、相手に選択肢を与えて「結論や決断を一緒につくる」ということです。
一般的に、医師が出した薬を患者がなかなか服用してくれないという現実があるわけですが、SDMにおいては「この薬を飲んでください」と指示するのではなく、「飲んだ場合と飲まなかった場合とではこんな違いが出ますがどうしますか?」と患者に尋ねます。
その結果、患者自身も巻き込んで「薬を飲む」と意思決定することになるので、患者に当事者意識が生まれて、きちんと薬を飲むそうです。
ここで重要なのは、医師ー患者間で「治癒」という目標が、明確に共有されているということです。なので、上司ー部下間でもお互いに目標を理解している状態で、部下に選択肢を与えながらコミュニケーションをとれば、コミットメントを確保できると思います。
安達 なるほど、非常に興味深い知見ですね。つまり、目標を設定する前に「部下がやりたいこと」を忖度しすぎるのは不適切だし、目標が決まっていても、一方的に部下に仕事を押しつけるとコミットメントを引き出せない。
だから、管理職があらかじめ目標を設定したうえで「それをどう達成するか」「貢献できることは何か」などを部下と話し合っていけば、いいチームができていくはずです。
「目標の明確化→目標を活用して、部下とコミュニケーション」という順番で取り組んでみてはいかがでしょうか。
(本稿は、『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉さんの対談記事です)
Books&Apps運営、企業コンサルティング
Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営する一方で、企業の現場でコンサルティング活動を行う。著書に、2023年ベストセラーランキングビジネス書部門で1位(日販/トーハン調べ)となった『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)など。