今、学生や転職者から最も人気の就職先の一つがコンサルティング業界だ。一握りの有望な人材を見抜くために、この業界にはフェルミ推定やケース面接と呼ばれる独特の入社試験がある。新刊『問題解決力を高める 外資系コンサルの入社試験』は、大手コンサルティングファームで出題された問題を集め、現役コンサルタントに解答してもらうことで、コンサル流の思考法をノウハウとして凝縮した1冊だ。本稿では、本書執筆者の1人であるコンサルタントのNozomi氏にコンサル業界で働く魅力について話を聞いた。

人気のコンサル業界は就職先として天国か地獄か? 若手コンサルが語る実際の働き方Photo: Adobe Stock

コンサルの仕事の内情を話すと……

――コンサル業界が就活市場で人気ですが、コンサル業界で働く魅力はどんなところにありますか?

Nozomi氏:給料の良さや、成長できる環境が整っているという理由で、新卒も転職も含めて人気になっていますが、良い面ばかりが強調されていると感じることもあります。

 時にかっこいい仕事のような見られ方をすることもありますが、実はそんなことはありません。せっかくなので皆さんがあまり話さないリアルな話をしてもいいでしょうか。

――新卒でコンサル業界に入られる方に関して、どんな苦労が多いのでしょうか?

Nozomi氏:ぱっと思いつくところだと、2つあります。1つ目は、コンサルの業務の大半は地味で根気を要する仕事だということです。

 コンサルタントと聞くと、クライアントに対して華麗に提案しているシーンみたいなイメージを思い浮かべる方もいるかもしれません。

 しかし、それはコンサルタントの業務の一部でしかありません。1つの提案をするためにはそれを裏付けるための膨大な調査や分析が必要となります。

 エクセルで地道にデータを分析したり、膨大な資料や報告書を読み漁って情報をまとめたり、事実を拾うために1次情報の収集に奔走したり……実は泥臭い面も相当あるんです。

 非常に厳しいオーダーを受け続ける日々の中で、たとえ地味で根気を要する仕事であっても真摯にクライアントの依頼に応えていかなければなりません。

爆速でキャッチアップしなきゃいけないプレッシャー

Nozomi氏:2つ目は、短期間で膨大なインプットをしなきゃならないことです。

 コンサルの仕事の大きな特徴に、数ヵ月ごとにプロジェクトを転々とすることがあります。

 食品業界の仕事をしていたと思えば、3ヵ月後には物流業界のプロジェクトを担当していて、そのまた3ヵ月後にはゼネコン業界の仕事をしていたりと、次から次へと異なる業界のプロジェクトに放り込まれます。

 一緒に働くチームにはその業界での経験が豊富な人もいますが、新卒で働く人にとっては、ありとあらゆることが専門外ですよね。

 だからといって、「イチから時間をかけてじっくり学んでいこう」と悠長なことをやってる時間はないので、必死で担当するプロジェクトに関することを勉強します。

 クライアントのビジネスについてはもちろん、その業界の特徴、クライアントが置かれている環境、競合のことなどを一気に学びます。

 コンサル業界では、割り振られた仕事の領域について短期間で学ぶことを「キャッチアップ」と言うのですが、爆速でキャッチアップする必要があります。

 1年目だろうが、クライアントから見たらプロフェッショナルに仕事を依頼しているわけなので、ド素人みたいな顔をしているわけにはいきません。

 決められた短い期間で大量のインプットをして、コンサルタントとして顧客と相対するための準備をしなきゃいけないプレッシャーは大きいです。

――大変な仕事ですね。

Nozomi氏:こんなことばかり話していると、誰もコンサル業界に就職したくないと思ってしまいそうですが、この業界だからこそ得られることもたくさんあります。

プロフェッショナルとしてのマインドが身につく

Nozomi氏:この業界で働いていてよかったと思うことを2つお伝えしようと思います。

 1つ目としては、プロフェッショナルとしてのマインドが身につくことです。

 コンサルの仕事は、クライアントが抱えている問題を前にして、情報を集めて調査を行ったり仮説を立てたりしながら、クライアントが納得できる提案を行い、彼らのビジネスをサポートすることです。

 当たり前ですが、与えられた時間がどんなに短くても、「調べたけれどわからない」とか「確信はないがこうだと思う」なんて言えません。

 簡単には答えが出ない問題を前に、徹底的に向き合わなければなりません。

 コンサルタントとしてクライアントに価値を届ける責任と正面から向き合いながら、プロフェッショナルとして妥協せずに徹底的に考え抜くというマインドが身につきます。

若いうちから経営に関わる仕事ができる

Nozomi氏:2つ目に、新卒1年目から経営に関わる仕事ができることです。

 一般的な事業会社の場合、経営層を中心にそれぞれの部署に仕事の管轄があって、さらに部署の中ではチームごとに仕事が振り分けられて、チームの中で担当者ごとにタスクを振り分けられますよね。

 特に大企業の場合は、経営者から担当者まで階層が多く、若いうちはいち担当者として仕事をするわけですから、経営的な視点で仕事に取り組む機会はほとんどないと思います。

 コンサルの仕事の場合、新卒1年目からクライアントの経営課題を解決することが仕事です。経営に関わる会議で使われる資料を作成し、それに基づいてクライアントの経営層や事業部長などが議論します。

 先ほどお話ししたように、数ヵ月ごとに異なるプロジェクトに配置されるので、短期間で色々な業界に入り込んで多くの会社の経営課題と向き合っていくことになります。これは本当に得がたい経験です。

人から共感されない変な職業病

Nozomi氏:話は少し逸れますが、こういうふうに働いていると、いつの間にか変な習慣が身につきます。

――変な習慣?

Nozomi氏:職業病みたいなものかもしれません。世の中のあらゆるものが「問い」として見えてくるんです。

 たとえば、街を歩いていて気になるお店を見かけることがありますよね。ネットの記事や広告で、新しいビジネスを知ることもあると思います。

 そんな時に「なぜこのビジネスは上手くいってるのだろうか」とか「一体どれくらい儲かっているのだろうか」とか、常に頭の中で分析したり計算したりする癖がつきます。

 私の場合はその癖が結構ひどくて……。登山する人はご存じだと思いますが、入山する地点にカウンターが置かれていることがありますよね。

――山を管理する自治体が、登山者数を把握するために、入山するときにカチッと押すカウンターのことですね。

Nozomi氏:朝、登り始める時にそのカウンターの数字を確認しておいて、登山をしている間に「1日の登山客はどれくらいだろうか」と推定して、下山する際にカウンターを見て答え合わせをするんです。

「自分の推定とは結構違うな……なぜだろう」とか考えたり、ついこんなことをしてしまいます。友人から共感されることはありませんが、きっと同業の方なら理解してくれる人もいると思います。

――仕事から離れていても、分析したり考えを巡らせる癖が出てしまうんですね。

Nozomi氏:コンサルの入社試験では、フェルミ推定やケース面接を必ず実施しますが、これは数ヵ月単位でやっているコンサルの実務を簡易化して模擬的に実演するようなものです。問題を分析したり、解決策を提案したりする能力を測るためのものです。

 コンサルや商社を受ける人にとってはもちろん必須ですが、そうでない人にとっても、ロジックを組み立てるトレーニングになるので、ぜひ一度、問題に挑戦してみるのは面白いと思います。きっと日常の仕事に活かせることが見つかるのではないでしょうか。