2017年の発売以降、今でも多くの人に読まれ続けている『ありがとうの魔法』。本書は、小林正観さんの40年間に及ぶ研究のなかで、いちばん伝えたかったことをまとめた「ベスト・メッセージ集」だ。あらゆる悩みを解決する「ありがとう」の秘訣が1冊にまとめられていて、読者からの大きな反響を呼んでいる。この連載では、本書のエッセンスの一部をお伝えしていく。

尊敬Photo: Adobe Stock

「尊敬」という概念があれば、上下関係はスムーズになる

 一般社会の中で、「上下」が存在する人間関係には、3種類あるように思います。「①親と子」「②上司と部下」「③先生と生徒」の3つです。

 いずれの関係も、「ある概念」があれば、行き詰まることはなく、スムーズに流れていきます。「ある概念」とは、「尊敬」というものです。

 基本的に、親は子に、上司は部下に、先生は生徒に対して、指導的で優位な立場にあります。このとき、上に立つ人間が、下の人間から「尊敬されている」と、その人間関係はスムーズに進んでいくようです。

 しかし、上に立つ人が「尊敬されるような人格」を持っていない場合、その人間関係は、かなりの確率で行き詰まっていくようです。

 親は、子どもに対して威張っていないでしょうか。上司は、部下に対して偉そうにしていないでしょうか。先生は、生徒に対して怒鳴ったりしていないでしょうか。上下関係は、基本的に「上の人が尊敬される」ほうがうまくいくようです。

 ある会社の社長さんは、部下を激しく怒鳴り続けていたことがあるそうです。その話を聞いた私は、「怒鳴られたり、怒られたりすることに対して、手当を出しているのですか?」と質問をしました。「もちろん、そのような手当はありません」という答えだったのですが、そこで私は次のように言いました。

「給料というのは、労働の対価として支払われるのであって、その中には、『怒鳴られる』ことに対する報酬は含まれていないのですよね」と。

 すると、その社長さんは、「そのような報酬が入っているわけがない」と言うので、私はさらに続けました。

「上司という人は、たぶん、下の人よりも忍耐強く、寛容だから『長』なのですよね。社員が10人いる『係』があったとき、係長は、その10人の中でもっとも忍耐強く、もっとも寛大な人のはずです。ということは、社長という人は、『会社』の中でもっとも忍耐強く、度量が広く、寛大であるのではないでしょうか」

 私の話を聞いた社長さんは、ポツリと言いました。「社長の給料の中には『忍耐料』も含まれているのでしょうか……」と。たしかに、「長」がつく人は「忍耐強くて寛容である」ことの報酬として、高い給料をもらっていると考えることもできそうです。

 その社長さんは、聞き取れないくらいの小さな声で「あぁ、だから俺の給料は少ないのか……」と漏らしました。私は声を出して笑ってしまったのですが、この日を境に、社長さんはほとんど怒ることがなくなり、いつもニコニコと笑顔で仕事をするようになったそうです。

 親も、上司も、先生も、立場が下の人の失敗に対して、なじったり怒ったりしない人格上の忍耐強さ、柔らかさ、寛容さを持つことが、「尊敬」の対象になります。

 怒鳴ったり、怒ったり、声を荒らげたりすることで「尊敬」を手に入れることはないようです。いつもにこやかで、誰に対しても同じやさしさと、同じ柔らかさで接する人が尊敬されるのです。親だから、というだけで子どもが言うことを聞くのではありません。上司だから、というだけで部下がコントロールできるのではありません。先生だから、というだけで無条件に生徒が慕ってくれるわけではありません。常にそこには、「尊敬」という概念が必要なようです。

 上下関係の間に「尊敬する気持ち」「尊敬される存在になろうという気持ち」があれば、人間関係はスムーズに流れて、多くの問題が解決していく気がします。