腕に薬を塗る手Photo:Kinga Krzeminska/gettyimages

かゆみの発症を繰り返すアトピー性皮膚炎の患者数は、国内で125万3000人に上る(厚生労働省「患者調査」2020年)。しかも、これは調査時点で約3カ月以内に診療を受けた人数であり、実数はもっと多いとみられる。その治療は長年にわたりステロイド薬、近年ではタクロリムス軟こう等が使用されてきたが、いわば対症療法であり、中等症・重症患者には効かないこともある。そのため新薬の開発が課題となってきたが、患者数が多いため製薬会社の新薬開発意欲は高く、それが実現したのは18年だった。以降、かゆみの原因を標的とした新薬(先進的全身治療薬)が次々と承認され、かゆみの起きない状態(寛解状態)を維持することも可能となった。ところが、この先進的全身治療薬が患者に届いていないのだという。(フリーライター 坂田拓也)

20代の10人に1人がアトピー発症
13.7%が「仕事を辞めたことがある」

 アトピー性皮膚炎の多くは乳幼児・小児期に発症し、年齢が上がるとともに患者数は減少するが、一部は成人型アトピー性皮膚炎に移行する。大学職員約5000人を対象とした厚生労働省の調査では、20代の有症率が10.2%、30代が8.3%となった。

「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」(2021年)はこれを受けて、「症例数が少なく、参考データだが、アトピー性皮膚炎は小児や思春期のみならず,20歳代・30歳代の若い成人においても頻度の高い皮膚疾患である可能性を示唆している」とした。また40代の有症率も4.1%と決して低くなく、50代と60代も合計で2.5%いる。

 成人患者の課題は「仕事との両立」だ。

 厚労省の調査で、アトピー性皮膚炎のために「仕事を辞めたことがある」と回答したのは13.7%、仕事のために通院が制限されて症状が悪化することが「時々ある」と回答したのは27.3%に上った(「アレルギー疾患の患者および養育者の就労・就学支援を推進するための研究」21年5月)。

 厚労省は、アトピー性皮膚炎が就労等に影響しているにもかかわらず、支援策が十分ではないとして、昨年度から全国のアレルギー疾患医療拠点病院に、専門知識を有する両立支援コーディネーターを配置するモデル事業を開始した。

 このアトピー性皮膚炎の治療が転機を迎えたのは18年のことだ。症状の原因となる物質(サイトカイン)の働きを抑えるバイオ医薬品デュピルマブ(商品名デュピクセント=注射薬)が承認された。

 その後、新薬が次々と世に出たが、新たな問題が明らかになりつつある。それは何か。次ページで明らかにする。