現在は2台体制で東日本と西日本を分担するムービングサロン。移動手段がなく、ネット通販も“よくわからない”客層にヒットした

 企業間の業績格差が激しい小売業。売れる企業はますます伸び、売れない企業が低迷する昨今、特に問題視されているのが地方消費だ。“買い物難民”なる言葉に象徴されるように、高齢化に伴って小売店舗に足を運ぶのを難儀に感じる人が増えていることから、市場競争はさらに激化する見込みである。

 そこで現在伸びているのが、店舗から消費者に接近する宅配サービスや移動販売である。家にいながら商品を注文できるコンビニ・ネットスーパーの市場規模は、2010年度で前年度比176.5%の632億円(矢野経済研究所調べ)と拡大を続けており、各社は有望ビジネスと見込んで力を入れている。

 ただ、ネットスーパーが提供するのは、日用品や食料品などの生活必需品がほとんど。生活に彩りを加え、豊かさを感じさせる商材ではない。そこにビジネスチャンスを見出したのが、化粧品の訪問販売で有名なポーラだ。

 大型バスを改造した移動型の販売店「ムービングサロン」が向かうのは、地方都市のホテルやレストランの駐車場。豪華なレッドカーペットが敷き詰められた車内を商談スペースとして、婦人服、バッグ、靴や宝飾品など、女性をターゲットとした高級ファッション品が500点近く並ぶ。百貨店の撤退が相次ぎ、“ちょっとしたおしゃれ”に困っていた主婦層の心をつかんだ。

 同社のリリースによれば、ムービングサロンは2011年10月に始動した。2012年末時点で、全国47都道府県の296会場で展示会を開催し、1万6000人の利用を数える。約140万円という1日の平均売上金額を見ても、その人気ぶりがうかがえる。

 ムービングサロンの成功を支えたのは、全国4500の営業所で勤める販売員(ポーラレディ)の存在が大きい。地域に根ざした販売・集客活動に長けたポーラレディが、各自が担当する顧客と密な連絡を取り合い、来店してもらう時間を調整。1人1人が買い物に充てられる時間をゆっくりとった。

 そして何よりのポイントは、ムービングサロンで金銭のやりとりをしない点にある。バス内で行うのは商談と注文のみ。後日ポーラレディが伝票を持って自宅を訪れ、商品と引き換えに代金を回収する仕組みをとっている。お金を持たずに気軽に来店できる上、安全性も保たれると利用者からは好評だ。

 ムービングサロンは、「地方で高級商材」という一見ハードルの高そうなニーズを掘り起こした。ネットスーパーも、近年では大手スーパー各社が参入し、首都圏以外にもエリアを拡大。地方スーパーの参入も増加している。

 顧客の情報をいかにして手に入れ、ビジネスに活用するか。そして商材と売り方を見定めれば、都市部でも地方でも顧客にリーチすることは可能ということを証明したムービングサロン。地方に眠るニーズの掘り起こしに、新たな選択肢が加わった。

(筒井健二/5時から作家塾(R)