子どもの頃に「おとなしい」と言われて嫌な思いをした方は多いのではないでしょうか。言っているほうは悪気はなくても、「おとなしい」という言葉にはどこか否定的な響きがあります。「内向的」という意味合いが込められている場合が多いからです。「外向的」な性格で悩んでいる人には会ったことがありませんが、「内向的」であることはよくないことと世間では受け止められてきました。しかし「内向的」な性格にも長所はたくさんあるのです。世界の大富豪イーロン・マスク、「ハリー・ポッター」シリーズの生みの親JK・ローリング、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズなど、世界の偉人とも言われる多くの成功者は、子どもの頃に内向的な性格でした。一人で深く思考を重ねるのが好きでした。だからいじめの対象になることも少なくありませんでした。しかし彼らは、ある時点で自分を成長させ、自分の良さを保ったまま、世に出ることができたのです。本連載では、最新の脳科学研究から明らかになった、「おとなしさの真実」とさまざまな「性格をリセットして成長させる方法」をお伝えします(本記事は『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』西剛志(ダイヤモンド社)より抜粋したものです)。
フェイクがあなたを変える
行動も性格形成にはとても重要な要素です。その一つが、フリをするとより性格がシフトしやすくなるという事実です。
これは、ケース・ウェスタン・リザーブ大学で行われた研究で、90名の参加者に「ある性格に関する教材を作成するので、登場人物になってほしい」とお願いしました。そして、「できるだけ感情が安定している人か、喜怒哀楽の激しい人のフリ(演技)をして自己紹介してほしい」と伝えました。演技後しばらくして感情安定度テストを行ったのですが、このような結果になったのです。
・感情が安定したフリをした人 → 6.9点(落ち着いた性格だった)
・喜怒哀楽のあるフリをした人 → 19.1点(感情の起伏が激しい性格だった)
(25点満点。0点に近いほど落ち着いていて、満点に近いほど気分が不安定で喜怒哀楽が激しい性格)
その差は歴然で、演技(フリ)をしただけでなんと3倍近く、性格的な特徴が変わってしまったのです。ある意味、別人と言ってもよいかもしれません。演技をしているときだけならわかりますが、演技が終わった後でも、性格が影響を受けていたのです。
よく役職が上がると、最初は自信がなくても、その役職らしく振る舞っているうちにだんだん自分がその地位にふさわしい人間だと思えてくることがあります。まさにこれが、演じることで脳のイメージが快感に変わり、消去学習が起きている現象です。
私も以前、省庁を退職して起業したとき、最初は自分が経営者として身分不相応な感じがしていました。しかし、クライアントから経営者として見られる機会が多くなり、そうなろうと思って演じているうちに、だんだんと周りから「貫禄がでてきた」と言われるようになり、それなりの言動をしている自分に気づく瞬間がありました。
他の研究でも、内向型の人は外向型の人の行動をまねると外向性が高まったり、幸福度も上がることも知られています。自分でない人のフリをすると、いつの間にか性格が影響を受けてしまうことが、数々のリサーチからわかってきているのです。
理想の人に近づくステップ
このようにフリをしたり、違う人になりきると、性格がシフトしていくことが数々の研究でわかってきています。なぜ、こんなことが起きるのか? 詳細はこれから解析されていくと思いますが、おそらくイメージするとミラーニューロンを通して、消去学習の神経系のネットワークが活性化し、性格が変化するのではないかと考えられています。
私も現場で1000名以上の方に試してきましたが、性格が短時間で大きくシフトする人もいて驚くことがあります。簡易版にはなりますが、次のステップを行ってみると、面白い体験ができるかもしれませんので、試してみてください。イメージが得意でない人は、理想の人の写真を見ながらやっても効果的です。
●ステップ1:理想の人やこうなりたい憧れの人を特定する
尊敬する経営者、スポーツ選手、芸術家、建築家、歴史上の偉人、フィクションの登場人物(映画、アニメ、小説など)を一人決めてください。
●ステップ2:目を閉じて、理想の人をイメージする
目の前にあなたが理想とする人、尊敬する人をイメージします。どんな表情をしているでしょうか? どんな服装をして、どんな雰囲気がするかを感じてみます。その人をみるとどんな気持ちになるでしょうか?
●ステップ3:イメージの中で一歩踏み込み、理想の人(憧れる人)の体の中に入ってみる
その素晴らしい感覚を感じながら、スーッと理想の人の体の中に入り込んでみます。そのとき、どんな呼吸をしているかを確認します。スピードは速いでしょうか。ゆっくりでしょうか。人を見るとき、どのように相手を見ているでしょうか? どんな言葉が心の中から出てくるでしょうか? どのように話しているでしょうか? どんな手の動きをしているでしょうか? 無理に想像する必要はありません。おそらくこんな感じかなという形でも大丈夫です。
●ステップ4:しばらく、理想の人の感覚を味わう
体の中に入ったら、その中にいる心地よさを味わってみてください。これまでと違って、人と話すときどのように話しているでしょうか? 息遣いはどのようになっているでしょうか? どんな眼差しで相手を見ているでしょうか? これまでと違って、どんなふうに相手の声が聞こえてくるでしょうか? これまでと違って、どんな気持ちで相手に接しているでしょうか? しばらく、味わったら、目を開けてみてください。
いかがだったでしょうか? イメージが苦手な人もいるので、無理に明確にイメージしなくても大丈夫です。何となく、こんな感じかなというフィーリングがあれば、これだけで変化が起こる人もいます。
昔は科学の世界ではあやしげな部分もあったイメージの効果ですが、近年は脳にも影響することがさまざまな研究で実証されてきています。真剣にやると効果が半減しますので、遊び感覚で肩の力を抜いて試してみてください。
余談ですが、以前、企業研修でスティーブ・ジョブズになりたいという人がいて、実際に入ってもらったことがあります。ワークが終わった後に、参加者全員が驚いたことがありました。ご本人は気づいていませんでしたが、ワークを終えた本人の声が明らかに低くなって、まるでスティーブ・ジョブズのような声の質感になっていたのです。
最初は冗談かと思いましたが、自然にその声が出るようでした。その方は、ジョブズをこよなく愛している人で、何度も彼のアップル社製品のプレゼンの映像を見ていたそうです。おそらく無数のジョブズの音声情報が彼の脳内にあったため、その記憶が本人の何らかの神経ネットワークに結びついて影響を受けてしまったのかもしれません。
実際にそれ以降、ジョブズのようにアイデアまでどんどん出てくるようになり、本人も驚いていました。イメージだけで、頭がよくなるという研究は知っていましたが、ここまでとは思いませんでした。実際にイメージが変わるだけで、頭のよさまで作り出すことができると知った貴重な体験でした。
私も仕事柄、講演会や研修などでも考え方をリセットするお手伝いをしますが、小さな行動をしてもらうことで、早い人では1ヵ月、長い人では半年から1年くらいかけて、確実に性格がシフトしていきます。
※本記事は『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』西剛志(ダイヤモンド社)より抜粋したものです。