「身体能力を向上させるために必要なのは『トレーニング』『リカバリー』『栄養』の3つのメソッドです」と語るのは、大坂なおみや錦織圭ら数々の選手を世界トップレベルに導いたフィジカル・トレーナー中村豊。この3つを適切に行えば、誰もが身心を健全に整えられるとして実践方法をまとめたのが『世界最高のフィジカル・マネジメント』です。本連載では同書からさまざまなメソッドを紹介していきます。
巷では実に様々なダイエット法が話題になっています。それほど誰にとっても関心の高いテーマなのでしょう。そこでダイエットの本場アメリカでポピュラーな方法をいくつか紹介し、プロトレーナーの目から本当にオススメできるものをお教えします。

プロトレーナーが本当にオススメできるダイエット法Photo: Adobe Stock

ダイエットに潜む危険

「身体を美しく整えたい」と願う方は多いでしょう。ダイエットは身体を正しくコントロールするという意味において、「フィジカル・マネジメント」の大きなテーマの一つと言えます。日本でも次々に新しいダイエット法が紹介されていて、皆さんの関心も高いことと思います。

 ここでは、日本でもブームになることが多いアメリカ発のダイエット法をいくつか紹介していきます。

 まず最も有名なダイエット法として「パレオ・ダイエット」が挙げられます。「パレオ」は、旧石器時代を表す「パレオリシック(paleolithic)」という言葉に由来します。古代から自然に存在する素材を活かした食生活を実践して、身体を健康に保つという手法です。加工食品を一切使用せず、植物、肉、木の実、根菜などを中心に摂取します。

「ケトジェニック・ダイエット」も盛んです。元々は、てんかん患者の発作を抑えるために開発された高タンパク質、高脂肪、少炭水化物の食事療法です。炭水化物を摂らないとエネルギー源である血糖が不足するため、脂肪が燃料として消費されるというわけです。

 その考えが先鋭化して、いっさい糖質を断ってしまう「糖質制限ダイエット」もポピュラーになっています。日本でも実践された方が多いのではないでしょうか。

 糖分を断つことで、たしかに身体は劇的に変化します。しかし、人間の身体は非常に精密にできているので、栄養素のバランスが崩れると身体の調子を崩しかねません。

 また、糖質不足が続くと、エネルギーを補うために筋肉をはじめとするタンパク質を分解して消費します。筋肉量が減って基礎代謝量が低下すると、痩せにくい体質となり逆効果になってしまいます。

「グルテンフリー・ダイエット」もよく知られたダイエット法です。グルテンとは小麦に含まれるグルテニンとグリアジンという2種類のタンパク質が絡み合ってできる成分です。グルテンは主に小腸へ悪影響を及ぼす可能性が指摘されていて、小麦粉製品を口にしないグルテンフリーを実践することで、体質改善を行います。

プロのトレーナーとして
本当にオススメできるダイエット

 これらのダイエット法の中で、僕が推奨するのは「グルテンフリー・ダイエット」です。僕は自分の体質を知るために血液検査を行ったのですが、グルテンについては、摂取を週に2~3回に抑えたほうが良いという結果が出たのです。そこで、実際にグルテンフリーを試したところ、体調や肌艶にとても良い影響が出ています。

 男子テニスのNo.1プレーヤー、ノバク・ジョコビッチはグルテンフリーの実践者として知られています。彼はグルテンフリーをテーマに『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(邦訳/扶桑社)という本を書いているくらいで、日本でもベストセラーになったので、ご存じの方も多いかと思います。

 その本では、彼がグルテンフリーを取り入れたことで、プレーが劇的に変わった様子が克明に描かれています。自分がNo.1になれたのも、グルテンフリーのおかげだ、と公言しているくらいです。

 ジョコビッチの本はテニス以外のアスリートの間でも非常に話題になりました。交流のあるサッカーの川島永嗣選手から聞いたのですが、長友佑都選手は常にジョコビッチの本を持ち歩き、グルテンフリーの話を盛んにしていたそうです。長友選手は食の洗練がアスリートの成長に直結すると力説していたようです。

 ダイエットを行う時、1ヵ月で10キロ痩せるとか筋肉を3キロ増やすといった即効性を求めがちになります。しかし、我々のようなプロトレーナー目線からすると、10キロ体重を落とすには、アスリート並みに身体を追い込む必要があり、また極端な食事制限を行わなければなりません。これほどの急激な減量を一般の方が行うと非常に危険ですし、成功したとしても、結局リバウンドしてしまうでしょう。

(本原稿は中村豊『世界最高のフィジカル・マネジメント』から一部を抜粋・編集して掲載しています)

中村 豊(なかむら・ゆたか)
ストレングス&コンディショニングコーチ
1972年生まれ。高校卒業後アメリカにテニス留学。スポーツトレーナーという職業に興味を持ち、カリフォルニア州チャップマン大学で運動生理学、スポーツサイエンスを学ぶ。1998年、サドルブルック・テニスアカデミーのトレーニングコーチに就任。2000年、女子テニスプレーヤー、ジェニファー・カプリアティのトレーナーに就任し、翌年世界No.1に導く。2004年よりIMGアカデミーに所属し、錦織圭のトレーニングを14歳から20歳まで受け持つ。2011年よりマリア・シャラポワの専属トレーナーに就任。シャラポワの黄金期を7年間支える。2020年6月、大坂なおみの専属トレーナーに就任。わずか2ヵ月でスランプに陥っていた大坂を再生させ、全米、全豪と立て続けのメジャータイトル奪取に貢献。世界のプロスポーツ界で最も注目されるフィジカルトレーナーのひとり。トレーナーとしての豊富な経験と知識を生かし、一般の人に向けた入門書『世界最高のフィジカル・マネジメント』を上梓した。