回答のポイント:クライアントが提供している本質的価値を見極める
アイスクリーム店が来店客にどのような価値を提供しているのかを考え、より本質的な価値を起点として新しいサービスを提案しましょう。

 解答例は以下の通りです。

クライアントを具体的にイメージし、売上を要素分解する

 私は、今回のクライアントは地方で長年経営しており、近年売上が伸び悩んでいる老舗のアイスクリーム店とします。

 来店客は店内のイートインスペースでアイスクリームを食べたり、テイクアウトもできたりするイメージです。

 売上向上策を検討する前に、アイスクリーム店のビジネスの特徴に着目しながら、売上を次の要素に分けてみます。

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アイスクリーム店の売上(年間)
=「アイスクリーム販売個数(月平均)」×「アイスクリーム平均単価」×12ヵ月
=「毎月の客数」×「1人あたりのアイスクリーム購入個数」×「アイスクリーム平均単価」×12ヵ月

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クライアントが提供する本質的価値を把握する

 売上の構成要素ごとに改善の可能性を検討するうえで、クライアントが提供している「価値」を明確にしたいと思います。

 私は、お客さまがアイスクリーム店に足を運ぶ目的は、単にアイスクリームを味わうことに限らないと考えています。

 具体的には、「何か甘いものを食べて休憩したい」といったニーズこそが、多くのお客さまの来店動機になっているのではないでしょうか。こうしたクライアントの提供価値(1)を念頭に置きつつ、売上向上の方向性を検討していきます。

売上の構成要素ごとに改善可能性を検討する

 まず、売上の構成要素の1つである客数については、一般的な店頭での販売以外の手段(ECサイトの活用など)を講じることで新たなお客さまを獲得できると考えます。

 また、もう1つの要素である商品の単価について考えると、クライアントは老舗のアイスクリーム店であることから、急激な値上げは既存のお客さまから嫌がられる可能性があります。

 ただ、既存の商品の値上げが難しい一方で、高価格帯のプレミアムアイスクリームやトッピングを導入するような施策は考えられます。

 さらに、アイスクリームという商品の特性上、冬季における売上の減少についてもテコ入れできる部分がありそうです。

 もちろん夏に比べれば冬にはアイスクリームの魅力は減るのかもしれませんが、それでも冬にもアイスクリームを食べたくなる場面は存在するはずです。

売上向上施策を具体化し、提案する

 以上を踏まえて、私は次の3つの売上向上策を提案します。

 1つ目は、「カフェのような空間づくり」です。

“何か甘いものを食べて休憩したい”といったお客さまの真のニーズを起点として、カフェのような要素を取り入れたアイスクリーム店舗へ変わることを提案します。

 具体的には、既存のイートインスペースをより心地よい空間に変えるよう店舗のレイアウトを見直したり、コーヒーなどのドリンク類を充実させたり、その他のスイーツを開発したりする施策です。

 これにより、1人あたりの単価向上や新しい客層の獲得が期待できます。また、これらの施策は冬季における売上の低下を抑えることにも有効と考えます。

 2つ目は、「販売チャネルの多様化」です。

 店頭販売だけではなく、ECサイトや近隣のスーパー、コンビニなどでの販売といったチャネル(販路)の多様化を進めることで、新規のお客さまとの接点を獲得し、販売個数を増やすという提案です。

 特に、ECサイトを通した販売は口コミを広めることにも有効であるので、味が強みの老舗アイスクリーム店であれば、実際に来店して商品を購入してくれるお客さまが増えるという効果も見込めます。

 最後は、「プレミアムアイスクリームの開発」です。

 高価格帯の商品を複数投入し、プレミアムラインとして打ち出すことで、単価の上昇を狙います。

 1つ目の施策によって、店舗レイアウトがより洗練されたものとなり、高価格帯の商品を選択してくれるような客層を取り込むことができていれば、客数と商品単価の相乗効果も期待できます。

 その他、抜本的には、たとえば店舗数を増やすなどのプランも検討可能です。

 そうした規模拡大によって、ブランドの浸透も図られ、さらなる新商品開発や、より洗練された高級カフェの店舗開設なども構想できるでしょう。

 以上となります。ありがとうございました。

※ケース面接の答えは1つに定まるものではありません。提案内容が皆さんの考えと大きく異なる場合もあると思いますが、その際は思考の深さや提案内容の具体性を見比べて自己評価してみてください。

(1)提供価値とは、「ウォンツ」やその背景にある「ニーズ」などを押さえたうえで見えてくる、企業が顧客に対して提供できる本質的価値のことを指します。

今回の場合では、お客さんの「アイスクリームを食べたい」という感情がウォンツに該当し、その背景にある「休憩したい」「涼しくなりたい」といった欲求がニーズに該当します。

そのうえで、こうしたウォンツやニーズを充足するために、企業が本質的に備えるべき価値が提供価値となります。

大手コンサル入社試験を現役コンサルが解答【ケース面接対策と解答例】

面接官からの質問と受け答え

──3つの施策のうち、より優先度が高いものはどれでしょうか?

 最も重要なものは、「カフェのような空間づくり」と考えます。

 これは本質的価値を起点に実施する施策であり、客単価の向上と新規顧客の獲得の双方に貢献し、売上拡大に与える影響は大きいと考えているからです。

 また、この施策を通じてクライアントのブランド力が向上すれば、その他の「販売チャネルの多様化」や「プレミアムアイスクリームの開発」といった施策の効果も高まります(ECサイトやスーパーでの取扱拡大、プレミアムアイスクリームの需要拡大など)。

──施策実行の費用について、どのようなものが考えられますか?

 店舗の改装多様な販売チャネルへの営業活動新商品開発などの費用が発生します。

 通常業務を滞らせないことを前提とすれば、従業員採用による人件費の増加も想定されます。

 ただ、クライアントによるアイスクリームの供給能力を踏まえれば数多くの販売チャネルを開拓する必要はなく、新商品開発においても既存のノウハウが活かせることから、施策の実現可能性は高いと感じています。

──カフェのような癒しの空間をつくった場合、顧客が長居することで回転率が低下し、売上が落ちてしまうようなことはないでしょうか?

 確かにカフェとなると従来よりも長居される可能性は高くなります。

 ただし、クライアントの立地場所は郊外ということで、都心にある店ほど回転率を重視したビジネスモデルとはならないはずです。

 とはいえ、たとえば勉強禁止の掲示を行うなどして、不必要な回転率の低下を抑える打ち手を講じるとよいかもしれません。

(本稿は『問題解決力を高める 外資系コンサルの入社試験』から一部を抜粋・編集したものです)