男性職員による
行政措置要求の法的根拠は?

 国家公務員法第86条は、「職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措置が行われることを要求することができる」旨を規定し、同法第87条は、「行政措置要求がされたときには、人事院は、必要と認める調査、口頭審理その他の事実審査を行い、一般国民及び関係者に公平なように、且つ、職員の能率を発揮し、及び増進する見地において、事案を判定しなければならない」旨を規定しています。

 そこで、国家一般職の職員であるAは、同条に基づき、行政措置要求を行い、人事院により判定がなされたことになります。

性的マイノリティーへの対応は
企業の人権意識を問う試金石

 従来、企業の社会的責任として捉えられていたのは環境問題が中心でした(環境コンプライアンス)が、ここ10年の間に人権問題一般についてコンプライアンスが問題とされるようになっています。人権コンプライアンス分野の議論は急速に進んでいます。性的マイノリティーのトイレ問題について、企業が取り組むべき課題であると認識され始めたのもここ数年間のことです。

 国際的にも、2011(平成23)年3月、国際連合が企業活動において人権問題にどのように取り組むべきかという行動の枠組みとして「ビジネスと人権に関する指導原則」、いわゆる「ラギー・フレームワーク」を提示したことにより、企業は人権の視点からも経営を行うことが求められるようになりました。

 会社法上、取締役(会)は内部統制システムを構築する権能を有し(第348条3項4号、第362条4項6号)、特に大会社においては取締役会が決議を行うことが義務付けられています(第362条5項)。また、委員会設置会社では、大会社ではない場合にも取締役会において決議を行うことが義務付けられています(第416条1項1号ホ・第2項)。内部統制システムとは、会社の業務執行が適切かつ効率的に行われることを確保するため、取締役が業務執行の手順を合理的に設定するとともに、不祥事の兆候を早期に発見し是正できるように構築すべき社内組織の仕組みのことです。

 コンプライアンス違反についても、これを事前に防止し、早期に発見し、是正するというシステムを構築しておくことが求められます。そのため取締役が、性的マイノリティーの権利を保護する仕組みを構築できなかったことにより、会社が性的マイノリティーの権利侵害を引き起こした場合には、取締役が任務懈怠責任(第423条1項、第429条1項)を問われる可能性があるといえます。