企業による私人の権利保護という議論が急激に進んでいることからすれば、性的マイノリティーを保護する仕組みを内部統制システムの中に構築しておくことは、そう遠くないうちに、当然のこととなると思われます。

 また、人権を顧みないというイメージを持たれた企業を顧客が支持するという期待は薄く、人権法務分野に無頓着であることは経営上も合理的な判断とはいえません。特に、製造業においてこの傾向は顕著で、ひとたび人権侵害企業とのレッテルが貼られてしまえば、バッシングを受けて商品が全く売れなくなってしまうおそれすらあります。企業にとって人権対策は、人権を尊重する社会的な責任があるという点に加え、このような危険を防止するというリスクマネージメントの観点からも必要性が高いといえるでしょう。

 以上のことから、事実上、企業は性的マイノリティー問題をはじめとする人権問題に取り組んでいくべき責任を負っている、ということができます。

社員研修などにより
潜在的な「当事者」に対応

1. 誰でもトイレの設置

 労働安全衛生法施行規則第628条が、事業者に対して男性用トイレ及び女性用トイレの設置を命じていますが、これにとどまらず、早急に多目的トイレもしくは、男女問わず利用できるトイレを設置することが求められます。「我が社にはいないから、いいだろう」などと胡坐をかいているわけにはいきません。カミングアウトしていない潜在的なSOGI(Sexual Orientation and Gender Identity 性的指向及び性自認)の存在を見逃すことになりますから、上記トイレを設置する必要性は高いといえます。

2. 社員研修

 会社側が何らかの措置をとろうとしたところ、社内で社員から反発が起こり頓挫してしまうような事態は何としても避けなければなりません。迅速な対応をするためには、日頃より社内において対SOGIに限らず、差別問題一般に対する理解を深める研修をしておくべきです。たとえば、性的マイノリティー当事者による講演会や性的マイノリティーの人権問題に明るい弁護士に指導を仰ぐ例があります。とはいえ、押し付けられた座学では効果が期待できず、むしろ反発を生む可能性すらあるため、工夫が必要でしょう。