女性職員と同等の扱いを求める
男性職員に人事院は拒絶の回答

 Aは、平成25年12月27日付で、職場の女性用トイレを自由に使用させることを含め、原則として女性職員と同等の処遇を行うこと等を内容とする行政措置の要求をしたところ、人事院は、同 27年5月29日付で、いずれの要求も認められない旨の判定をした(以下、「本件判定」といい、本件判定のうちトイレの使用に係る要求に関する部分を「本件判定部分」という)。

 そこで、Aは、本件判定の取消訴訟及び国家賠償請求訴訟を提起した。

【課題解説】過去の裁判例に見る
心の性に従ったトイレ使用の是非

 上記の事例と類似の事案について、裁判所は、(1)原告が男性用トイレを使用しなければならないことは、日常的に相当の不利益を受けている状態にあること、(2)原告が女性用トイレを使用することによりトラブルが生じることは想定しがたいこと、(3)原告が女性用トイレを使用することにより特段の配慮をすべき他の職員の存在も確認されていなかったことなどから、本件判定部分を違法と判断しました(最三小判令和5年7月11日)。

 ただし、この裁判例は、あくまでも当該事例に対する判断であり、当該事例と異なる事情がある場合には、心の性に従ったトイレを使用することはできないという判断がなされる可能性もあることに注意が必要です。

憲法13条から導かれる
自己決定権としてのトイレの選択権

 憲法第13条は、「幸福追求に対する国民の権利」すなわち幸福追求権を保障しており、同条を根拠に「新しい人権」が主張されています。そのような新しい人権のひとつに、「自己決定権」があります。これは、一定の個人的な事柄について、公権力から干渉されることなく自ら決定することができる権利のことです。

 他方で、自己決定であっても、公権力や他者からの介入がなされなければならないと考えられているケースもあります。それは、例えば、未成年であるとか、酩酊状態であるなど、自己決定をする能力に乏しい者がした決定に介入する場合や、その自己決定により他者に危害を及ぼす場合です。

 自己決定権の一環として、自己が使用するトイレを選択する権利があるか否かという点については、本裁判例は判断していませんが、筆者私見では、性同一性障害者がトイレを選択する自由は、生命身体に関する自由の一貫として、全面的・絶対的保障ではなくとも、憲法上の保障を受けると考えています。