多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。「ここまでわかりやすく傾聴について書かれた本はないだろう」「職場で活用したら、すぐに効果を感じた」と大反響を呼んでいます。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。
「部下の話にまったく共感できない」と嘆く上司たち
傾聴では、一般的に「共感」が重視されます。
ところが、どうも「共感」というものが正しく理解されていないように私は感じています。というのは、企業の管理職研修などの受講生からこんな質問を受けることが多いからです。
「部下の話にまったく共感できないときは、共感をしなくてもいいのでしょうか。部下が不平不満を言っているのですが私は賛同できません。だから共感もできないのです」
「共感」と「同感」は違う!
しかし、この認識は正しくありません。
「共感」もしくは「共感的理解」について、臨床心理学の世界ではたくさんの考察がありますが、おしなべて言えるのは、共感とは「相手の気持ちを相手と同じかそれ以上に深く理解し感じること」であり、決して「相手と同じ結論に至る=同感」である必要はないということです。つまり、多くの方は「共感」と「同感」を混同していると思うのです。
「共感」と「同感」とは異なります。聴き手が話し手に合わせて意見を変更する必要はないのです。同感とは「私もそう思います」ということであり、共感とは「あなたはそう思うのね」ということです。
もっと言うならば、共感とは「あなたはそう思うのね。ちなみに私は違う意見なんですけど」というもの。共感とは話し手の感じ方や考え方を理解し、「そうだったのか」と感じ入ることなのです。
「理解する」より、「感じ入る」ことが大事
その際に、可能な限り持っていてほしい姿勢は、「理解する」よりは「感じること」。「感じること」以上に「感じ入ること」。つまり、思考による理解だけでなく、聴き手の内面で「じーん」と、もしくは「じんわり」と心が動くことが大切です。
「そうか。部下の不平不満は理解しがたいけれど、彼がそれほどやりきれない思いを抱えていたのかと思うと、彼なりに努力してきたと思えるな」と、少しだけでもいいので部下になりきって「じんわり」感じ入ってほしいのです。
冒頭の質問は、おそらくは無理矢理「同感」しようとして、困難を感じたのだと思われます。管理職の立場として、部下の不平不満に同意してしまうと、それを助長することになるし、自分に嘘をつくことにもなる。かといって、バカ正直に否定すると傾聴にならない。そこで、「うーん……」と考え込んでしまったのでしょう。
「傾聴」に「同感」は不要である
しかし、「同感」する必要はなく、「あなたはそう思うのね」と「共感」さえできればいいとわかれば、みなさんも「それならばできるかも……」と思うのではないでしょうか? 「共感」と「同感」を混同するのをやめるだけで、「傾聴」をすることのハードルを下げることができるのです。
「傾聴」に「同感」は不要です。
「共感」と「同感」を混同なさらぬよう、くれぐれもご注意ください。
(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。