俗にいう「IQが高い人」には
IQテストと関係ない能力もある

落合 IQテストは、因果推論ができるかを試す問題が多いですね。その因果推論機能が人間から外れると、コミュニケーションの取り方がまったく変わるんでしょうね。

 ただ、因果推論能力の高さと回転の速さは別なんじゃないかという気がします。IQが低くても回転の速い人はいるんじゃないかな。たとえばIQテストでよくあるのは、4つぐらいのパターンを見せて、「じゃあ次の5つめはどれでしょう」という問題。与えられた4つから原因と結果のパターンを発見して、5つめを推論させるわけです。AIにやらせたら、その手の問題の解答能力はめちゃくちゃ高いはずなんですよね。そこの因果推論をAIに委ねる場合、IQが低くても回転だけ速ければ作業効率を上げられるのではないかと。

暦本 なるほど。IQの高い人は推論能力が高い上に頭の回転が速いという印象があるけど、IQテストは回転の速さは測っていませんね。

落合 そうなんです。俗にいう「IQが高い人」には、IQテストと関係ない能力もあるような気がするんですよ。だとすると、そのIQっぽいけどIQとは違うパラメータは、AIによってオワコンにならない。じゃあ、IQ的な推論能力は低いけど回転だけは速いのはどんなタイプだろうと考えると、いまだと定形発達ではないといわれる人たちかもしれません。

暦本 たしかに、IQの高い人たちのソサエティには、そういうタイプもいる。言葉数は多いけど、理路整然と喋るわけではない感じの人。

落合 僕の教え子にもIQが高くないと公言する子がいましたが、研究はちゃんとできていました。本人は「コンピュータがなかったら無理だと思う」といいますけどね。数式を理解するのに時間がかかっちゃうけど、プログラムを書いて動いたものを使えば理解できるそうです。きっと頭の使い方が違うんでしょうね。でも、そうやってコンピュータを使っていると、推論能力が激減するような気もしていますけど。

暦本 独創的な発想のできる人のIQが高いのかと考えてみると、たしかにあんまり関係はないかもしれない。打数が多ければ打率が低くてもヒット数は稼げるのと同じで、回転が速ければ独創的なアイデアは出せますね。その一方で、じっくり時間をかけて考えた挙げ句にすごい作品をつくる人もいるじゃないですか。そういう人は、外から見ると凡庸に見えたりするかもしれない。