――そうなると、学校の試験などでは何を測ることになるんでしょう。いまは入試でも、ペーパーテストからAO(*2)へという流れがありますが、これは知能や学力より「いいヤツ」かどうかを判別しているようにも思えます。

暦本 いまアメリカの大学はほぼAO的な入試ですが、入学後にかなりの割合で成績の低い学生をふるい落としているんじゃないですか。日本の大学は入試にさえ合格すればほとんど卒業までできるので、入試をAOにするなら、途中でドロップさせるシステムが必要なのかもしれません。ペーパーテストを課せばある程度は学力のベースラインがキープできるけど、大学の勉強についてこられるかどうかを面接で見極めるのはきわめて難しい。

「ひとり遊び能力」は
なぜ大事なのか

書影『2035年の人間の条件』『2035年の人間の条件』(マガジンハウス)
暦本純一 著、落合陽一 著

落合 僕は、AOに対抗する必殺技をここ3年くらいの経験から見出したんですよ。学生がプレゼンに使うノートパソコンのデスクトップを見せてもらうんです。すると、ソフトウェアやファイルの配置でだいたい何をつくれる人なのか察しがつきますね。事前にそのために準備してきたプレゼン資料や面接での会話だけでは、この能力は見えてこない。その意味で面接とは異なる尺度のやっぱりペーパーテストは重要ですよね。

暦本 ペーパーテストを否定する人は、よく「偏差値だけが基準では個性が失われる」というんですけど、偏差値教育ごときで失われる程度の個性なんか個性のうちに入らないんです。科目数は減らしていいかもしれませんが、数学と母語と英語のペーパーテストなどは続けたほうがいいと思いますね。

 しかも今後は、AIを使って個々の受験者に違うレベルの問題を出すことも可能でしょう。たとえば中学や高校の期末テストでそれぞれの学力の伸び具合を知りたいなら、そういうやり方もできる。

落合 科目は何であれ、質問に対して自分ひとりで考えた答えをいっぱい書かせるのも重要だと思いますね。AOの面接だと、相手とコミュニケーションをする中で対応できちゃうから。対話可能な状態で面白い答えを出してくる人間を高く評価すると、人と対話不能な状態では何もつくれないヤツを選んでしまうおそれがある。応答は得意だけど、ひとりで作業させると全然進まない子が交ざるんですよ。

*1
LLM Large Language Models=大規模言語モデルの略称。文章作成などの自然言語処理で用いるために、大量のテキストデータとディープラーニング(深層学習)技術によって、文章や単語の出現確率に基づいて構築される言語モデル。チャットGPTもLLMのひとつである。

*2
AO 小論文や面接などで人物を評価して合否を判断する選抜制度。米国では入学許可担当事務局(Admissions Office)が選抜を行うため「AO制度」と呼ばれるが、日本の大学などで実施されている「AO入試」は米国のスタイルと必ずしも同じではなく、正式には「総合型選抜」という。