中国の「便利さ」は、低賃金で過酷な労働に支えられている

 今の中国で、仕事を見つけるのは簡単なことではない。若者たちは超・就職氷河期に直面している(参考記事)。上述の2人の店員はその後解雇されたが、SNSでは、店員たちを責めるのではなく、むしろ同情の声があふれていた。むしろ女性客に対して「自己中で、わがままな客だ!」というコメントが目立つ。

 中国はデリバリーやスマホ決済など、何もかもが便利だ。しかし、こうした便利さを享受できるのは、低賃金で過酷な労働に従事する多くの人たちが支えてくれているからである。だからこそ今回の件に対しては、「店員も人間。ロボットではない」「これは雇用側の責任だ!利益を最大にするために、従業員を犠牲にしている」という声がたくさん上がった。

「今回の件は、一見すると店員と顧客の喧嘩だが、すべては経済の低迷が起因となっている」と、ある著名な時事評論家が指摘していた。「経済が良い時には、社会問題や矛盾が見えにくい。しかしいったん経済が悪化すると、人々が不安を抱えるようになり、心の余裕がなくなり、イライラし、怒りが爆発しやすくなる。将来の生活が不透明ゆえに、人々は財布のひもを固くし、“安さ”を求めている。企業はそれに迎合し、低価格を求め、従業員を犠牲にする。今回の事件はまさにこういう悪循環の表れだ。つまり、低賃金、重労働、デフレなどの問題が露呈する出来事だった」と述べた。

中国で急拡大している人気のコーヒーチェーン「マナーコーヒー」 Photo:Unsplash中国で急拡大している人気のコーヒーチェーン「マナーコーヒー」 Photo:Unsplash

 日本でも、客が店員に対して理不尽なクレームを付けたり難癖を付けたりする「カスタマーハラスメント」が問題になっている。中国のケースとは違うが、雇用側は従業員を守る責任があることは共通しているはずだ。従業員が幸せであれば顧客も幸せになる――この視点は、日中の企業が今後取り組むべき共通の課題なのかもしれない。