このように考えてみれば、今後の日本が「長寿国」であり続けられるかどうかは、ライフスタイルの変化次第だといえるでしょう。過食や飽食、運動不足や孤立や引きこもり。こうした昨今の話題は、老化を促進させる要素に満ち満ちています。ちなみに興味深いことに、センチネリアンの子どもたちは、必ずしも長寿ではありません。そのため百寿の理由は、遺伝的な要素よりも後天的な環境要因のほうが大きく影響していると考えられています。これらの事実も、「老化問題は社会を映す鏡」とみなされるゆえんでしょう。

 ただし10年ぐらい先には、若返りの研究もかなり進んでいるはずですから、その恩恵を受けて長寿の選択肢は増えているはずです。ぜひ、そうなってほしいし、そうしたい。そのため日夜、研究を進めています。

老化の謎との出会い

 カロリー制限にも長寿効果があります。だとすれば、身体の大きな人と小さな人では、寿命に違いが生じる可能性があります。

 要するに、身体が小さく食事の量も少ない人は、カロリー制限の恩恵を自然に受けている。逆にたくさん食べて、エネルギーもたくさん産出していると、酸化ストレスも起きやすくなるため早死にする可能性が生まれる。そればかりでなくただ単に、体内の細胞量の比較を基に、身体の小さい人は大きい人より長生きするとした研究成果もあるくらいです。

 小柄で長生きといえば、私の祖父がまさしくそうでした。もちろん、これは「N=1(サンプル数が一人)」の話であり全く科学的ではありませんが、祖父は95歳まで健常に生き、そして他界しました。160㎝に満たない身長で食事の量も少なく、いつも菜食を心がけていました。犬好きでしたから、朝夕欠かさず犬と散歩をする。詩吟も嗜たしなみ、数人の仲間と死ぬまで楽しく励んでいた。まるで長寿のお手本のようなライフスタイルでした。そんな祖父は、たかが「N=1」されど「N=1」として私の心に強く残っています。