一度は引退宣言も取締役に復帰
息子が入社し75歳で引退準備を開始

 国内は安定成長で、海外にも拡大余地――。PPIHの経営を眺めると、今後も堅実な成長を遂げそうに思えてくる。しかし、もちろん課題もある。最大の悩みが安田氏の後継問題だ。

 実は、安田氏は15年に引退宣言をしたことがある。同年6月に代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)を引き、取締役からも外れた。しかし、創業者であり大株主でもある安田氏は、大きな意思決定時には経営陣から助言を求められてきた。そして19年からは、非常勤ながら取締役に復帰している。

 PPIHの強さの秘密として、よく「権限委譲」というキーワードで説明される。店舗のレイアウトから商品ラインアップ、発注数、POP作成まで全てを現場に任せている。メイトと呼ばれるパートやアルバイトスタッフが、仕入れや値付けといった小売業の根幹を担うのだ。各店舗の顧客層や気候、店舗担当者の個性が反映するからこそ、ユニークで個性的な店ができる。それが、中央集権的なチェーンストアを好む他の小売企業との最大の違いであり、強さの源泉として語られることが多い。

 しかし、大きな経営判断においては、安田氏の存在は圧倒的に大きい。実際にこれまでの歴史を振り返ると、重要な局面の経営判断は常に安田氏が下してきた。

 住民反対運動の際の営業時間の短縮や企業買収はもちろん、引退後にスタートしたシンガポールでのDON DON DONKIの展開も安田氏のアイデアだ。非常勤の取締役という立場でも、重要な経営の意思決定における存在感は大きく、事実上のトップであることを疑うものはいない。

 ところが、その安田氏は75歳を迎えたいま、「引退」の準備を始めている。今年に入ってから息子の純也氏がPPIHに入社し、「次の大株主」として関係者への紹介に回っているという。さらに、6月には本業以外の最後のライフワークとして「運」をテーマに本も出版した。

「運は私にとって永遠のテーマであり、その運について語るのを本業(事業経営)以外の最後のライフワークにしようと思っている。そういう意味で、本書『運』は、いわば私の“遺言”のようなものだ」(『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』安田隆夫著・文春新書)

 引退を前に、安田氏はいま人生をどう振り返るのか。PPIHをいかに引き継ごうとしているのか。明日から2日間にわたり、安田氏本人への独占インタビューをお届けする。

Key Visual by Kanako Onda