2017年の発売以降、今でも多くの人に読まれ続けている『ありがとうの魔法』。本書は、小林正観さんの40年間に及ぶ研究のなかで、いちばん伝えたかったことをまとめた「ベスト・メッセージ集」だ。あらゆる悩みを解決する「ありがとう」の秘訣が1冊にまとめられていて、読者からの大きな反響を呼んでいる。この連載では、本書のエッセンスの一部をお伝えしていく。

ありがとうの魔法Photo: Adobe Stock

1%の嫌なことのために、99%を敵にしてはもったいない

 ある宿に、「お風呂は夜11時までに入ってください」と書かれた貼り紙がありました。

 これより強い言い方をすると、「夜11時以降の入浴禁止」となり、柔らかい言い方をすると、「お風呂は夜11時までご利用いただけます」となります。

 3つとも伝えたい内容は同じで、「夜11時まで入浴可能」ということです。ですが、「夜11時以降の入浴禁止」と書いてあると、不快感を覚える人もいるでしょう。

「お風呂は夜11時までに入ってください」はもっともよく見かける文言ですが、「命令的」であることは同じです。事務的で冷たく、あたたかさを感じません。

「お風呂は夜11時までご利用いただけます」となると、不快どころか、「そうか、夜11時までは、まだ入れるんだ」と、なんとなく得した気分になります。

「単なる言葉遣いの違いにすぎず、たいしたことではない」と思われるかもしれませんが、私の考えは少し違います。

 その言葉の中に「泊まってくださってありがとう」という気持ちが含まれていれば、「夜11時以降の入浴禁止」とも、「お風呂は夜11時までに入ってください」とも書きにくいような気がするのです。

 ある有名観光地で、ある食堂に入ったときのことです。満員になれば30人ほど入れるお店に、20人ほどのお客様がいました。お店に入ったとき、私は不思議な気がしました。店内がシーンと静まり、誰も、何も話していないのです。

 メニューを見て、さらに驚きました。次のような断り書きがあったからです。

「ここは食堂です。おしゃべりをしたい人は、喫茶店に行ってください。食べ終わったら、すぐに席を空けてください。無駄なおしゃべりはお断りします。店とトラブルが生じた場合は、すべてお客様の責任とし、5割増し料金をいただきます」

 シーンとしている理由がわかりました。この店に入ったお客様は「おしゃべりはお断り」だから黙っているのではなく、不快感を我慢していたのだと思います。

 誰もが「こんなお店には、二度と来ない」と思ったはずです。けれど、このお店は有名観光地にあり、何も知らない観光客が次々にやってきます。

 ですからお客様の再訪がなくてもやっていけたのでしょう。このお店に、過去「嫌なお客様」が来たことがあったのだと思います。

 食べ終わっているのに長話をし続けたお客様がいた。腹を立てた店主はこうしたお客様をお断りするために「断り書き」をつくったのでしょう。

 ですが、そういう「嫌なお客様」と、「善良で常識的なお客様」では、後者のほうが圧倒的に多いはずです。

 おそらく、店主が我慢できないほど長居をするお客様は「1%くらい」で、1000人のうち、10人いるかいないか、だと思います。

 それなのに、店主は断り書きを用意し、1%の「嫌なお客様」に対する敵意を99%の「善良なお客様」にも向けていたのです。私は「もったいない」と思いました。

 1%(一事)のために、99%(万事)を敵にしているのがこのお店の姿なのです。「一事が万事(ひとつの行動がその人の行動のすべてを示しているので、それを見抜きなさいという意味)」に似せて言うなら、「一事で万事」。

 ちょっとした小さな出来事(嫌なこと)をもとに、社会全体に対して恨み憎しみを持ち、「あたたかい人」や「親切な人」にまで敵意にあふれた態度を取ってしまう……。

 わずかな「嫌なこと」を前提に、日常生活の態度を決めると、自分にとって大事な人に対しても、警戒的、攻撃的、戦闘的な態度を取ることになってしまいます。

「嫌なこと」も、受け入れる。「夜11時以降の入浴禁止」ではなく、「お風呂は夜11時までご利用いただけます」と書けるようなあたたかい心が持てたら……、と思います。