ターゲットになるのはどんな人? どんな資産?

 では、相続税調査でターゲットにされやすいのはどんな人だろうか。これは主に、相続財産が「現金や有価証券」「国外にある資産」である人だ。不動産は、路線価で価格が一目瞭然だからそれほど重視されない。ただ、複雑な地形など、土地の評価額の計算で誤りやすい場合は、その評価方法が適切かを調査する可能性も高い。また、東京都内など大都市にある親の家を相続する人は、基礎控除額(*3)を超えるような価値がある場合に調査対象となる可能性もあるので注意しよう。

 先述のように、税務調査は“マル査”が行う査察調査でなければ強制力はない。それ以外は、国税通則法の「質問検査権」に基づく任意調査である。しかし、任意とはいえ納税者は調査官の質問に答える必要がある。調査官は午前9時以降に2~3人でやって来て、午前中は被相続人(亡くなった人)について相続人(財産を引き継ぐ人)から一通りの聞き取りを行う。

 聞き取り内容はマニュアル化されており、調査官は机上調査で疑問に思った点を相続人に淡々と質問していく。午後以降は、預金通帳などから相続財産の確認を行って申告内容に誤りがないかを調べるが、預貯金の出し入れに関しては事前に金融機関への照会を行うなど、かなり詳細なデータを持って臨んでくる。とりわけ、「名義預金」は最優先の調査項目だ。実地調査はこんな調子で進み、基本的には1日で終了することが多い(A税理士談)。

「名義預金」とは、本来は被相続人の財産だが、被相続人と異なる名義の預金をいう。例えば、子や孫に少しでもお金を残そうと子や孫の名義で口座を作り、そこに被相続人の財産の一部を預金している場合が代表的だ。また、被相続人の生前から専業主婦である配偶者がコツコツと自分名義の預金通帳に貯めているような場合、つまり「へそくり」も名義預金となることもある。

 調査官から預金の有無を聞かれた時、配偶者から決まって出るセリフは「生活費をやり繰りして貯めたのだから私のもの」だ。だが、配偶者が専業主婦であれば、家計には被相続人以外の収入がないため名義預金と判断される。

 現行税制は、実質的な所有者や所得者に課税する「実質課税主義」を取っているため、預金の名義とは関係なく「実質的に被相続人に帰属する財産」は相続財産とみなされ、相続税の課税対象となる。

 故に、調査官は、配偶者の預金通帳に強い関心を持っており、なんとか預金通帳を確認したいと思っているのだ。実地調査で預貯通帳のない金融機関のカレンダーでも発見しようものなら、自分たちが知り得ていない取引銀行があると想定し、その銀行に問い合わせて預金の有無を確認する。

 名義預金か否かの判断は、おおむね次の基準で行われる。

(1) 預金通帳、証書、届け出印鑑、キャッシュカードなどの持ち主は誰か
(2) (1)の保管場所
(3) 預金通帳などの所持・保管状況――相続開始時点と調査日現在
(4) 預金や株式の取引の指示は誰が行っていたか
(5) 原資は誰が負担していたか
(6) (5)が被相続人の場合、贈与が行われたか(行われた場合の税務申告や納税状況)

 被相続人の財産を配偶者が相続する場合は、夫の財産を妻が相続するパターンが一般的である。奥さんが調査対象者の場合、最近は女性調査官が担当するケースが増えているようだ。確かに、男性に寝室のタンスを調査されるのは抵抗があるだろう。何より、同性同士の何げない世間話からさまざまな情報が得られるメリットは大きい。

 最後に一言。もし、実地調査の通知が来たら……。まずは税理士に相談するべきだが、その際はできるだけ相続税を専門に扱っている税理士に依頼しよう。当然、確定申告などに比べると相続税の申告案件は極端に少ない。相続税専門の税理士でなければせいぜい年に数件程度、その中から調査案件につながる件数は……推して知るべしである。年間に24件の場数を踏む調査官に対応するには、やはり、調査対応の経験が豊富な税理士を選びたい。

*3 「3000万円+(600万円×法定相続人数)」で算出