1975年から投資を行い、気がつけば夫婦どちらも働かなくても暮らせるようになっていたという個人投資家が、娘宛てに「お金と投資」についての手紙をしたためた。それが書籍化され、世界中でベストセラーになったのが、『父が娘に伝える 自由に生きるための30の投資の教え』(ジェイエル・コリンズ著)。たった1つに投資するだけ、というそのメソッドとは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教えPhoto: Adobe Stock

安いときに買い、高いときに売るのは、ほぼ不可能

 日経平均株価が4万円を超えてからの大暴落と変動が激しくなっている株式市場。さらなる下落を心配する人、いまこそ始めるタイミングと考える人など、さまざまな形で投資に対して関心を高めている人がいることだろう。

 投資がうまくいく方法とは、どんなものなのか。さらには、どうやって始めればいいのか。いろんな思いを持っている人が少なくないのではないか。

 投資に関する本は数々あるが、自身の投資家としての成功体験を娘に伝えようと、やさしく書かれた1冊、というのは珍しいかもしれない。それが、『父が娘に伝える 自由に生きるための30の投資の教え』だ。

 著者のジェイエル・コリンズは、1975年から投資を行っている。何度も転職をする中で、気がつけば夫婦どちらも働かなくても暮らせるようになっていた。その経済的な自由を手に入れたメソッドとは、どのようなものなのだろうか。

 その1つこそ、インデックスファンドに投資する、である。タイトルにある「30の投資の教え」の8番目に、興味深い小見出しがあった。「なぜ市場でお金を失う人が多いのか」だ。

株価が高いときに売って、安くなったところで買うのは、とても魅力的に思えますが、ほぼ不可能です。高いときに買い、安くなってから売ることになるのが現実です。市場がどんどん上昇しているときには買い、状況が厳しいときにはパニック売りをしてしまいます。(P.103)

 しかも、これは誰にでも当てはまるという。人間は生まれつき、そうなってしまうというのだ。投資家の心理を分析した論文が数多く出されているが、人間は変動する市場でうまくやることに心理的に適していないようだ、と著者は記している。

 さらに、知っておくべきは、これは個人投資家に限らない、ということである。プロのファンドマネジャーなら、と思えるが、ほとんどの場合、そんなことはないというのである。

82%のファンドは、インデックスに負けた

 びっくりの事実が、本書では掲載されている。アクティブに運用を行うファンドマネジャーのほとんどは、自動的に運用されるファンドより、悪い成績しか残せていないというのだ。

 なぜそうなるのか。人間の心理状態は弱く、どうしても「市場のタイミング」を捉えようと考えてしまうからだと著者は記す。その結果、悪いタイミングで市場に参入し、出ていくごとになりがちなのだ、と。

私たちは、儲かる株式を選び出すことはできません。不快に思わないでください。私にもできません。ビジネスで投資を行っているプロのほとんども、できません。この能力を持つ人がとても少ないため、それができる人はとても有名になります。(P.105)

 そもそもプロのファンドマネジャーがアクティブに運用するファンドは規模が大きく、利益率の高いビジネスだという。ビジネスとして、とても儲かるのだ。実際、USニューズ・アンド・ワールド・レポートの2013年の記事によれば、株式関連のファンドは4600件あるのに対して、アメリカで公開されている株式は3700銘柄。株式銘柄の数よりもファンド数の方が多い。そして、毎年、全ファンドの約7%が閉鎖しているという。

 ファンドには、次々に資金が入る。だから、新しいファンドが次々できる。成果を出すことができたファンドやファンドマネジャーはメディアに取り上げられ、派手な広告で彩られることになる。

 しかし、と著者はいう。

実は、長期間で見ると、インデックスを上回る実績を上げたファンドマネジャーはごくわずかです。2013年にバンガードは、これについての調査結果を発表しました。1998年に株式でアクティブ運用を行っていた1540のファンドすべてを調査した結果、15年後に生き残っていたのは、このうちの55%です。その中でインデックスを上回った実績を残せたファンドはわずか18%でした。82%のファンドはインデックスに負けたのです。しかし、すべてのファンドが顧客から高い手数料を取っていました。(P.107)

 だから、著者が選択している投資法は、ポートフォリオの大部分をインデックスファンドに任せている。インデックス投資はやる気がない人がやるものではなく、最高の結果を求める人のためのものなのだ。

投資の世界はビジネスの現場になっている

 著者が大きな信頼を寄せ、その資産のほとんどを投資しているのは、アメリカのバンガードのインデックスファンドである。その創業者、ジャック・ボーグルは、バンガードをつくり、インデックスファンドを生み出すユニークな仕組みを構築した。金融界の巨人は、こんな言葉を残している。

80歳代になったジャックは、市場に勝つことについて、こう語っています。
「このビジネスを61年間やってきましたが、市場に勝つことはできません。勝った人に会ったこともありませんし、勝った人に会ったという人にも会ったことがありません」
(P.129)

 インデックス投資の考え方は、「個別の銘柄選びに成功する確率はとても小さいので、インデックスを構成するすべての株式を買うことで、よりより結果が得られる」というものだ。

この考え方は、ウォールストリートのプロに高い手数料を支払う理由付けに疑問を投げかけてきました。当然、強い反論が出ます。ジャック・ボーグルは激しく罵られましたし、今でもそうする人々は存在します。しかし、彼が最初のインデックスファンドを始めてから40年もたつと、彼の考え方が有効であることは何度も確認されて、支持者を拡大してきました。(P.129-130)

 それでもインデックス投資に抵抗感を持つ人はいるという。もっと稼げるのでは、平均では飽き足らない、成功して自慢したい……。こうした思いを抑えきれない人たちだ。

 また、投資の世界はビジネスの現場になっていることにも改めて留意する必要がある。ファンドマネジャーのみならず、アクティブファンドでビジネスをしている人や会社はたくさんいる。彼らが生きていくための大きなビジネス市場になっているのだ。

ウォールストリートでは、新しい商品や投資スキームが次々と生み出され、皆さんの前に登場します。一方では、失敗したファンドは人知れず消えていきます。でも、勘違いしないでください。新しいファンドやスキームは、提供する側の人々の財布を厚くするために生み出されるのであって、あなたの財布を厚くすることは目指していません。(P.229)

 著者の投資アドバイスが多くの人に支持される理由は、「インデックスファンドで投資を」といった極めてシンプルな提案であることに加え、自らの経験をもとに投資の世界の裏側で起きていることを教えてくれるからだろう。そして、投資は複雑なもの、というイメージはこの裏側から来ている。

 それを垣間見ることができれば、投資は元来、実はシンプルなもの。わかりやすいものだということがわかる。

(本記事は『父が娘に伝える 自由に生きるための30の投資の教え』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。