サッカーに別れを告げた斉藤オーナーが
再びカズと共闘するまで

 現役引退後はアルミやプラスチックを成形し、産業機械・農機・船外機などの部品を製造する家業の「協同ゴム工業(現・株式会社協同)」に入社。台湾での事業を任され、さらにタイの現地法人設立に携わるなど国内外でビジネスマンとして経験を積み、2013年9月に父の後を継いで社長に就任した。

 斉藤オーナーは引退後、協同を国際的な企業に育てた先に、選手とは別の立場でサッカー界に携わり、恩を返していく夢を抱くようになった。協同が2016年から「日本障がい者サッカー連盟」のパートナー企業を務めてきたのはその一環。2022シーズンまでは古巣ヴェルディの社外取締役にも名を連ねていた。

 そして斉藤オーナーは、この活動にさらに注力すべく、2023年秋にアトレチコ鈴鹿(当時のチーム名は鈴鹿ポイントゲッターズ)の新オーナーに就任することとなった。

 実は旧体制下の鈴鹿は、八百長疑惑、元執行役員によるクラブへの恐喝未遂、カズの実兄・三浦泰年監督(当時)による「選手へのパワーハラスメント行為」など、ガバナンス上の問題が多発していた。

 そこで斉藤オーナーは、鈴鹿の発行済み株式を全て取得し、協同がオーナー企業となる形で経営体制を刷新。再出発を図ることにしたのだ。

 クラブ名称も鈴鹿ポイントゲッターズから、アトレチコ鈴鹿に改めた今シーズン。斉藤オーナーは1月と4月の二度にわたってポルトガルへ足を運んだ。同国の2部リーグ、オリベイレンセでプレーするカズに直接会い、夏の移籍市場で鈴鹿に迎え入れたいとラブコールを伝えるためだった。

「実際にカズさんの練習を見て、私たちのチームでまだまだ選手として活躍できるという確信を得ました。一人の選手としてボールを止めて、蹴るといった部分に関しては人一倍、優れたものがある。さらに若い選手たちが多いなかで、ピッチの内外におけるカズさんのプロフェッショナリズムが、チーム内でいい方向に展開していくという期待も込めて、今回のオファーを出した次第です」

「確かにJリーグの初代MVPに輝いた20代のころに比べれば、体力的な変化といったものは少しばかりあるかもしれない。それでも鈴鹿というチームの新たな戦力として、私は絶対に必要だと考えていました」