2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

【市場予測】スニーカーメンテナンス事業の市場規模を分析する方法Photo: Adobe Stock

スニーカーのコレクター向けメンテナンス事業は
どれくらいの規模か

 前回のTAM、SAM、SOMの違いについて、ここでは具体的な例で考えてみよう。コレクター向けスニーカーをメンテナンスしているスタートアップを取り上げてみる(以下の数字は架空の数字であることを留意いただきたい)。

 彼らは靴をコレクションしているハイコレクター(20足以上持っている人)とミドルコレクター(10~20足持っている人)の方々向けにサービスを展開しようと決めた。このように、ユーザーサイドで、どれくらいデマンド(需要)があるのかをリサーチして数字を置くのが重要になる。

 下図の通り提供するメニューは、スニーカーラップ(ラップで包むこと)、ソールの張り替え、ウォッシュ、名前やロゴを入れるDIYがある。

 ここで頻度に目を向けると、スニーカーラップも毎年行うわけではないだろう。調べたところ平均して5~6年に一度の頻度なのではないかと考えられる。ソールも頻繁に履けば、張り替えは必要になるがこれも毎年替えるわけではない。

 また、コレクターでたくさんスニーカーを持っていれば、1足をそこまで履き潰すことはないかもしれない。このようにユーザー数がどれくらいなのか検討をつけていく。

スニーカーメンテナンス事業の全体図

 ここで改めて、市場の全体図を考えてみたい。初期のターゲットは、ハイコレクターとして、彼らに対するメンテナンスサービスをSOMとして設定した。

 続いて、スニーカーのミドルコレクターも含めた愛好家全体へアプローチし、さらにメンテナンスだけでなくDIYもしていくSAMへと広げていくこととした。とはいえ、国内の一般ユーザーも含めたらスニーカー市場は広大となる。その広大な規模の市場に対しても、もしかしたらマーケットプレイスを展開できると考えTAMと置いた(下図)。

 これを改めて具体的な数字で整理して計算してみよう。下図を見ていただきたい。

 SOMは図の濃い青の項目に当たる。SAMには薄い青の項目が含まれる。ここで計算していくと、数字は仮置きだがたとえば、ハイコレクターの方が8万人近く(7万8300人)いて、ミドルコレクターの方が、約23万人いるとする。

 それに対して、ラップは6足に1足行うとして0.165回/年の実施となる。これを計算していくと、ハイコレクターの方のスニーカーラップでは、78300人×25足×2700円×0.165回となり、大体8.7億円の市場規模となることが見えてくる。

 続いて、ソール張替えが9.4億円ウォッシュが2.3億円になる。これを足すとSOMとなり20.4億円だと計算できる。

 続いて、DIYとミドルコレクターを含めた市場で合計すると、SAMは約32億円になる(下図の右下を参照)。

どこを狙い、どう展開していくのか
仮説を立てるのに有効

 このように、TAM、SAM、SOMで算出していくと、自分たちがどのように顧客を積み上げていけば、どの程度の市場規模になるのかの解像度を高めていくことができる。

 さらに、ハイコレクター約8万人にはインフルエンサーマーケティングを行い、そのインフルエンサーをフォローしているユーザー2000人をターゲットにするという戦略を立てた。ハイコレクターの40分の1がターゲットとなり5100万円が見込めるという算段となった。

 大きなマーケットを狙う際にも、初期の段階ではどこを狙いどう展開していくのか仮説を立てるのに有効である。

 以上が「鳥の眼」でのTAM、SAM、SOMの分析である。

 このようにトップダウンではなく、顧客の行動、数、不の大きさ、頻度を積み上げて算出していくことで市場を把握できる

 これを身につけることによってマクロ市場における解像度が高まり、戦略的にどのリソースをどの順番で投入していくべきかを判断する力をつけていくことができる。加えて、その先にある大きな市場(TAM)を見据えることも可能となるのだ。

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。