当日、控室に艶やかな着物姿の麻央ちゃんが。周囲を見渡すと、なぜかうちの社長が不在です。となると、麻央ちゃんに謝罪するのは常務の私の役目となります。おずおずと近づいて「文春としてお詫び申し上げなければならないことがあります」と切り出すと、ニッコリ笑った麻央ちゃん。「もう、忘れましょう。こんな賞もいただいたんだし。金メダルをとっていない私を励ましてくれたお気持ち、感謝します」と、神対応。ホッとすると同時に、さすがに「見せるスポーツ」の人だなと感心しました。姿勢がまっすぐで、着物にしわが寄らないように、控室にいる間、ずっと立ちっぱなしで、開始を待っておられました。

体操選手はみんなヘビースモーカー
「東洋の魔女」を怒らせたペットボトルの水

 今回、五輪直前に女子体操の選手が飲酒、喫煙で出場辞退となりました。ただ、選手たちが密かに教えてくれたところによると(当該選手は未成年ですから別ですが)、「体操などはストレスが強いので、喫煙に対してはコーチたちも厳しく禁じはしない」とのこと。エースで有名な「あの選手」も、実はヘビースモーカーだそうです。

 それにしても、かつての日本選手といえば、本番になると緊張して、実力を発揮できず敗退という国民性でしたが、今の若い子は違います。スケートボードなど、生き生きと五輪を愉しむ姿は、日本人も変わったなあと実感させられます。

 しかし、高齢者の私には、ストイックな選手の姿の方がしっくりきます。スキージャンプのレジェンド、葛西紀明選手が来社されたときは、あまりに痩せていて、小さいことにびっくりしました。浮力を維持するにはあの身体を維持する強い意志がいるのかと、感極まった次第です。

 そして、以前の東京五輪。あの大松監督率いる東洋の魔女を主将として支えた河西昌枝さんに、取材をしたときのことです。今や会社の会議では、お茶やコーヒーは姿を消し、ペットボトルの水が置かれています。河西さんは若い担当者に向って、「こういう座談会では水じゃなくて、お茶でしょう」。担当者が慌ててお茶のペットボトルを持ってくると、キッとなって「こういう席では、茶卓に湯飲みでお茶は出すものですよ」。会社中を探し回って、ようやく社長室から茶卓と湯飲みを用意しました。

 我ながら、五輪選手の「名言・迷言・大失言」を本当にたくさん聞いてきたものだなと思います。

(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)