「自分の力が通用するか知りたくて、Uber Eatsに挑戦したことがあります」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が『記憶に残る人になる』。ガツガツせずに信頼を得るための考え方が満載で、「本質的な内容にとても共感した!」「営業にかぎらず、人と向き合うすべての仕事に役立つと思う!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、2023年に独立した際の「Uber Eatsへの挑戦」について紹介します。
なぜ独立直後の僕は
「Uber Eats」に挑戦したのか
2023年の2月、僕は勤めていた会社から独立して、「感動体験」をつくってきた経験や能力を使ってお客様をサポートするコンサルティング業を始めました。
十分な仕事量が見込めるわけではありませんでしたが、タイミングを待っていたら足を踏み出せなくなると思い、見切り発車的に独立しました。
そこで自信をつけるために、僕はある挑戦をしました。
Uber Eatsの配達員です。
お客様とたった数秒しか接点を持てない世界でも自分の能力が通用するか、試したくなったのです。
Uber Eatsを利用したことがある人はわかると思いますが、商品配達後、利用者は配達員と商品に対する評価を求められます。そのなかで出るのが、「配達員へのチップ」を選択する画面。僕も今までに何十回と利用してきましたが、チップを送ったのは二回だけでした。
ひとつは、大雨の日に「こんな日に申し訳ない」という気持ちで。そしてもうひとつは、インターフォン越しに感じの良い挨拶をされたとき。この、たった二回だけです。
「思わずチップを送りたくなる配達員って、どんな人だろう?」
いつも疑問に思っていたため、「じゃあ自分が挑戦しよう!」と決断したわけです。
「当たり前」を、誰よりも真剣にやると決めた
これまで「感動体験」を与えてきたといっても、何か特別なことをしたわけではありません。
ホテルマン時代、瓶ビールを顔の高さで注ぐだけで「特別な体験」に変化しました。
法人営業時代、お辞儀を人よりたった2秒長くしただけで「誠実な人」という印象になりました。
Uber Eatsの挑戦でも、みんなが面倒くさがる「当たり前」や、意味も考えずにおこなっていることを、誰もできないほど真剣にやろうと考えました。
そこでお客様と配達員との接点を考えてみたところ、次の六つでした。
② 配達ルートが表示されるマップ
③ 注文を受けた後のメッセージ
④ インターフォンでの会話
⑤ 受け渡し時の会話や身だしなみ
⑥ 配達完了後のメッセージ
信頼を得るための「小さな工夫」
プロフィール画面では、他の配達員がラフな服装であるのに対して、僕はあえてスーツを着込み、感じの良さと礼儀正しさを表現しました。
配達ルートをマップで見たお客様が「なぜそっちに行くんだ!」と失望しないように、事前に配達エリアの地理を頭に入れました。
テキストメッセージでは、これから配達開始する旨を送り、時間がかかりそうな場合は信号待ちのタイミングで「今、この辺りを走行中です」と一報入れ、配達後には「お礼のメッセージ」を送ることを徹底しました。
インターフォンでは、「お待たせいたしました。Uber Eatsです!」と感じの良い挨拶をし、カメラ付きの場合は配達バッグの「Uber Eatsロゴ」が見えるようにして安心感を持ってもらえるようにしました。
そして爽やかな印象を持っていただくために、服装は半袖の白いシャツに、下は綺麗めなジーンズ、靴は白いスニーカーを着用しました。
玄関の扉が閉まった後には再度の一礼を。対面ではない「置き配」の場合は、商品が床に触れないようにA4用紙を敷き、そこに「ご注文、誠にありがとうございます」とシンプルなメッセージを入れました。手書きだと水滴でにじむ可能性があるため、事前にプリントしたものを用意しました。
新人配達員が、熟練の猛者と並んだ
お客様と会話できるのはせいぜい数秒ですが、会話に自信のない僕は、それ以外の考えられる箇所すべてにこだわってみました。
その結果、計50回の配達で5回のチップをいただくことができました。
ベテラン配達員さんにこの評価を見てもらったところ、新人にしては高い数字であると言っていただけました。
ネットによると、配達数1000回を超える猛者でも、チップ率は5~10%とのこと。失敗か成功かとジャッジするならば、一応は成功を収めることができました。
本業のコンサルタント業とUber Eatsは似ても似つきません。ですがこの挑戦によって、たとえお客様との接点が少なくとも感動体験を感じてもらえると、自分の能力に自信がつきました。
(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、お客様の「記憶に残る」ことを目指したことで1年で紹介数が激増し、社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSkyに入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。