それでは、エンジェル投資におけるリターンの源泉は何でしょうか。

 そもそも資産を運用して得られるリターンは、キャピタル・ゲインとインカム・ゲインの2種類に大別されます。キャピタル・ゲインは資産の売却によって得られる利益のこと、インカム・ゲインは資産を保有していることで得られる利益のことです。例えば株式の場合ですと、株を購入したときと売却したときの差益がキャピタル・ゲインに、配当がインカム・ゲインに相当します。

 一方、短期間で急成長を目指すスタートアップが株主に対して配当として還元することはめったにありません。変化の激しい市場環境においてシェアを獲得し、事業を成長させることを優先するためです。そのため、スタートアップ投資で期待されるリターンは、投資したときの株価と売却時の価格の差額(キャピタル・ゲイン)を狙う場合がほとんどです。

 具体的に、スタートアップに投資してリターンが発生するのはどのような場合か、詳しく見ていきましょう。大きく4つのシナリオが考えられます。

 投資家が資金を回収することを「イグジット(エグジット、EXIT)」といいます。イグジットには「IPO」と「M&A」の2種類が存在し、それぞれ期待されるリターンと投資回収までの時間軸が異なります。

投資成功:投資先企業がIPO(株式公開)する

「IPO」とは、「Initial Public Offering(新規株式公開)」の英語の略称です。これは証券取引所に上場することで、誰でも株取引ができるようになることを指します。IPOによって、企業はより広い投資家層から資金調達を行うことができるようになり、上場前から投資をしていた株主にとっては株式を売却することで大きな利益を得られる可能性があります。

 2022年に上場した企業の時価総額の中央値は約58億円で、100億円以上の時価総額がついた企業は30社ありました。例えば創業初期に1億円の時価総額で投資したスタートアップが100億円の時価総額で上場した場合、投資家は100倍のリターンを得られる計算になります。つまり、例えば10万円を投資していれば1000万円になるわけです。

 エンジェル投資家にとって「ホームラン」ともいえるIPO。しかしながら、IPOを目指す道は決して容易ではありません。すべての企業が上場を目指しているわけではありませんが、創業から上場までの期間の中央値は約7年と言われているうえに、株式会社のうち上場している企業の割合がわずか約0.2%にも満たないことからもわかるように、非常に狭き門といえます。IPOを目標にしているスタートアップに投資する場合、投資回収には時間がかかることを考慮して臨んだほうが良いでしょう。