「どうしよう」「助けに戻らないと」

 恐る恐る車を確認すると、もはや女の姿はなく、後部座席に残されていたのは友人たちだけ。1人は気絶し、1人はうつろな目でけらけら笑っている。彼らは間近で、女の「顔」を見てしまったからだ。それはどんな顔だったかというと……。

「――この話、他の人から聞いたことありますよ」と、ここでハガキ読みが中断され、木曜パーソナリティの藤本憲幸(ふじもとけんこう)からコメントが入る。最近これとよく似た女が名古屋市内をうろついているらしく、その顔は口が耳まで裂けているのだ、と。

 ただし本当の裂傷ではなく口紅によるメーキャップ。通行人やドライバーを脅かすイタズラ目的のようだ。アシスタントの水谷(みずたに)ミミの友人もこれに驚いて運転を誤り、事故を起こして入院したのだという。「本当に迷惑なので、今すぐそんなイタズラを止めてください」と話題を締めくくった。

 1978年7月、埼玉のローカル紙「文化新聞」でも似た話が記事化されている。

 飯能市の青年3人がドライブ中、宮沢湖近くの路上で若い美女をナンパし、車に乗せる。ところが薄暗い山道に入ったところで「女は、いきなりニャッと笑ったかと思うと、見る見るうちに、その真っ赤な口が耳のあたりまで裂けて、生臭い息を青年たちにフーッと吹きかけた」のだ。若者2人はすぐに車を飛び出したが、逃げ遅れた運転手だけは「“美女”の顔をたっぷり見たためそのショックは大きく」病院送りとなったとのこと。

 しかし同紙は続報にて、この女は幽霊ではなく生きた人間によるイタズラ(やはり口紅によるメイク)であり、その犯人が逮捕されたとの噂を紹介。ただ警察に問い合わせると、そんな犯人がいたとの噂もまたデマだったと判明した。つまり口裂け女が出たとの話はデマだったが、その根拠となる話もまたデマだった……という複雑な噂だったのである。

POINT
・マスクを取って裂けた口を見せ、子どもを脅かすとされた女怪人
・最も有名な都市伝説で、1979年に日本中で大流行した
・ただし70年代半ばには既に、似た噂が日本各地で語られていた