ROICは「資本コスト」を
上回ることが重要

 続いて、オムロンがKPIとして採用しているROICについて見ていこう。ROICは、営業利益からみなし税金(ここでは実効税率を30%として試算)を差し引いた税引後営業利益を投下資本(=有利子負債+純資産)で割ることで計算される。
注※オムロンではROICの分子の利益として当期純利益を用いているが、ここではより一般的な定義に従って分子に税引後営業利益を用いて計算する。また、現行の日本における会計基準に合わせる形で、有利子負債にはオペレーティング・リース負債を含めていない。

 23年3月期におけるオムロンのROICは、約10%となっている。

 税引後営業利益をFCF(フリー・キャッシュ・フロー)と同等とみなし、そこから銀行などの債権者に対するコストと株主に対するコストが支払われると考えれば、ROICが、企業が調達した有利子負債と株主資本を合わせた全体としての資本コストであるWACC(加重平均資本コスト率)を上回ると、株主価値が創造される(株式時価総額が純資産を上回る)ことになる。そのためROICは、東京証券取引所が要請する資本コストや株価を意識した経営を実現する上で、非常に重要な意味を持つ指標となっている。

 24年3月期第3四半期の決算説明会資料によれば、22年3月期から24年3月期においてオムロンが想定しているWACCは5.5%とされている。この数値との対比でいえば、オムロンの23年3月期におけるROICは想定WACCを上回っている。

 しかし、結果からいえば、24年3月期においてオムロンの業績は大きく落ち込み、オムロンは冒頭で述べた2000人規模の大リストラに踏み切ることになる。後編では、24年3月期の決算書を読み解き、大リストラの理由について解説しよう。

矢部謙介(やべ・けんすけ)/中京大学国際学部・同大学院人文社会科学研究科教授。ローランド・ベルガー勤務などを経て現職。マックスバリュ東海社外取締役も務める。X(@ybknsk)にて、決算書が読めるようになる参加型コンテンツ「会計思考力入門ゼミ」を配信中。著書に『決算書の比較図鑑『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』『粉飾&黒字倒産を読む』(以上、日本実業出版社)など。
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