今回の株式の大暴落は、確かにきっかけは日銀総裁の方針変更でした。しかしこの方針変更、為替の関係者にとってはサプライズがあったかもしれませんが、企業経営の観点では織り込み済みの話です。

 日銀がある程度利上げに動き、アメリカのFRBが利下げに動くというのはすでに株価にも織り込み済みの話です。そのうえで企業業績を考えるとむしろ直近の1ドル=160円の円安のほうが日本経済には打撃がありました。

 よく日本経済は円安のほうがいいという人がいます。輸出関連株を持っている人にとってはそうなのですが、日本経済全体でみれば製造業は2割しか占めていません。7割はサービス業や小売業など第三次産業が日本経済を構成しているわけで、極端な円安はむしろ経済にはブレーキです。

 そう考えると、植田ショックは為替は動かしましたが、日本経済全体で見れば悪い結果にはなりません。ですから金融の専門家は、8月5日の大暴落の後でも経済の前提が変わったとは考えなかったのです。

 これと過去の「ショック」の違いを比較してみましょう。

 バブル崩壊の引き金になった金融緩和策の終了時、1990年12月末では定期預金金利が6.08%の水準でした。ここまで金利が高まると借金をして不動産投資をしていた企業は不動産を投げ売りせざるを得なくなります。地価崩壊が経済崩壊を招き、経済の前提が変わりました。

 リーマンショックでは世界中の金融機関が証券化されたサブプライムローンを保有してしまい、どこがいつ破綻するのかがわからないという過去の歴史にない状況に追い込まれました。最終的に政治判断でリーマンブラザーズ以降、破たんしそうな大手金融機関が保全されたことでショックは収まりますが、金融システムが崩壊するかもしれないというのは経済の大きな前提変化でした。

 コロナショックはそもそも世界の経済が止まってしまうという変化でした。このときは本当はもっと大きな株式市場の下落が起きていてもおかしくなかったのですが、世界の中央銀行が先回りして金利を下げることで株価のショックは最小限で済みました。

 そして現在の状況です。それらのショックと比較して、為替以外の経済の前提条件は大きく変化していません。そこから考えると今回の暴落は心理的なものだと断定できます。だとしたら下げているときはむしろ、株を安く買うチャンスです。

 実際に、8月5日に株を買い迎えた強者は少なくなかったはずです。何しろ暴落とはいえ売買が成立している以上、売って損をした人と同じ数だけ、買った人がいたことになります。

 心理的には8月5日のような暴落はセリングクライマックスといって、後から考えると買いの最大のチャンスなのですが、なかなかそれを適切に捉えることは難しいものです。私はうっかり8月4日を「セリングクライマックスじゃないか?」と勘違いして、少し早く買ってしまいました。儲けが少なく残念な結果でした。

 そして大半の人は8月6日のように、市場心理の大勢が判明したところで賢く動きます。前日深夜のシカゴ先物から8月6日には大暴落した市場が2000円以上戻すことが確実だったため、この日は安心して投資家が買いに向かえたのでしょう。それがこの日、過去最大の株価上昇が起きた原因です。みんな株価が戻すのを見て、それで株を買ったわけです。