「金の仏具」での
相続税対策はお得なのか

 締めくくりは再び「純金のお鈴」の話である。

 相続税法は「墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」を相続税の課税価格に算入しないと規定している。そしてその根底には、「祭祀財産」は地域や家族ごとの慣習や宗教観に沿って承継されるべきものという民法第897条1項(*6)の考え方がある。例えば、全国の歴史ある寺院には、建物の随所に金が使われている所も多いが、これらは祭祀財産と見なされ相続税の課税対象外。純金製のお鈴など仏具も同様ということで、冒頭で紹介したような税理士の「助言」も生まれるわけである。

 だが、相続税調査では、その純金製品が「投資商品」なのか「仏具」なのかを巡って、税務署と相続人とで意見が分かれることも珍しくない。被相続人が死亡した後だけに、相続人には本当に「仏具」として購入されたものかは分からない。また、注意したいのは、被相続人が亡くなった後、相続財産を使ってお墓や仏壇・仏具を購入した場合は、たとえ被相続人のために購入したものでも非課税とはならないということだ。あるいは、被相続人が生前にローンで購入していた場合も、死亡時点での未払い分は債務控除できないことになっている(*7)。

 国税出身の税理士は、「被相続人が生前に『これは投資商品ではなく仏具として購入したもの』という何らかの証拠を残しておくことで税務署との意見の相違はかなり回避できる」と話す。ただ、仮に「仏具」として認められ、相続税が非課税だった場合でも、相続後に金の仏具をお金に換えようと売却したら、前述したように譲渡所得に対する課税が発生する。

 さらに、金の仏具の購入価格には加工費用が含まれているので、同じ分量の金の延べ棒を売却した場合よりも、加工費用分だけ利益が目減りすることも頭に入れておかなければならない。「金の仏具」で相続税対策を行う際は、このように相続後に売却するケースまで考えておこう。

 なお、近年は犯罪防止の視点から、200万円を超える金の現物取引において、買い取り業者から本人確認書類や銀行口座が分かる書類などの提出を求められることもある。同時に、「金地金支払調書制度」によって、やはり1回の取引額が200万円を超えると、販売業者が税務署に支払調書を提出する仕組みも導入されている。こうした情報は、税務調査の対象を選定する際にも活用されることも知っておきたい。

*6 祖先を祀るために用いられる系譜・祭具・墳墓については、「祭祀財産」として相続財産に含まれない旨を定める。祭祀財産は「系譜」「祭具」「墳墓」
*7 相続財産から控除できる債務(国税庁)参照