山口 金融を介してタスキがつながれていくわけですね。

岩井 アベノミクスの話に戻ると、デフレとはお金の価値がモノの価値に比べて上昇することです。だから、アイデアはなくてお金だけがある人や企業がお金を手放さないので、なかなか利潤が生み出されません。

 そこで、金融緩和を進めて若干インフレ気味にすることによって、お金を持っているだけでは損をする状況にしようとしている。「それなら、誰かに貸したほうがいい」と思う人が増えてくる。インフレ期待が高まれば、将来的に高い値段で売れる可能性が出てくるので、アイデアを持っている人がそれを商品・サービスに実現化するインセンティブが高まってきます。その結果として投資が促進されて景気が刺激されていくという好循環が期待されるわけです。

 もちろん、それが行きすぎるとハイパーインフレを引き起こしかねませんが……。でも、一国内のハイパーインフレは、先進国であれば制御可能です。

山口 お金を抱え込んだまま動かない人の背中を押そうとしているわけですね。ただ、僕が心配しているのは、それに伴ってお金そのものに対する信用が損なわれることです。先生が指摘する効果が期待できる一方で、それがとどまるところを知らなければ、いつか大量にばらまかれたお金のことを誰も信用しなくなってしまう。その分岐点は。いったいどこになるのでしょうか?

岩井 なそれがマクロ経済学において最も重要ポイントの1つですね。デフレは基本的に悪です。これに対し、緩やかなインフレは先程述べたように経済にはプラスの作用をもたらします。ところが、その一方で常にインフレはお金の価値を低下させてしまいます。

山口 そこがネックになってくるわけですよね。

岩井 先程の言語の話に戻って考えてみましょう。

お金とは、実体が存在しない<br />最も純粋な投機である

 自己循環論法的にいえば、言語はほかの人も言語として用いているから言語なのであって、人が言語を覚えるのは、その言語が将来的にも使われ続けることに無意識のうちに賭けているわけです。お金にも同様の原理が働いて、お金とはすべての人がお金として受け取るからお金なのです。同じ貨幣を使い続けるという行為は、実は、将来に対する投機にほかならないのです。

 しかも、通常の意味での投機の対象は、株式や商品先物や金融派生商品に至るまで、どこかで必ず実体的な生産活動や消費活動に結びついている。たとえば原油の先物取引にしても、最終的にはその実需に左右されていくわけですし、派生商品であっても例外ではありません。ところが、お金の場合は、どこにもこうした実体が存在しない。誰もお金を食べるためや見るために使うわけではなく、常にほかの人に渡すために使うわけです。つまり、お金とは最も純粋な投機なのです。

(後編に続く)

次回は4月24日更新予定です。


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