10年連続で算数オリンピック入賞者を輩出している彦根市発の知る人ぞ知る塾「りんご塾」。天才を生み出すそのユニークな教育メソッドを、塾長の田邉亨氏が初公開した書籍『10年連続、算数オリンピック入賞者を出した塾長が教える 「算数力」は小3までに育てなさい』(ダイヤモンド社刊)が、このたび発売になった。本書を抜粋しながら、家庭でも取り入れられるそのノウハウを紹介する。
挨拶しない、靴を揃えない‥‥そんな子は多い
りんご塾に通っている子どもたちは、算数が得意な、いわゆる優秀な子が多いので、さぞしっかりしているのだろうと思われるかもしれません。
私立の有名小学校に通っている子のように、身だしなみがきちんとしていて、挨拶がちゃんとできて、お行儀もいい。そんなイメージなのでは?
ところが、実はそんなことはありません。
・挨拶をしない
・靴を揃えない
・行儀よく椅子に座っていられない
こういう子はザラにいます。特に低学年のうちはそうです。
子どもは理由があれば行動する
静岡から無料体験にやってきた小1のAくんもそんな感じでした。
お母さんとの事前のやりとりでは、「うちの子は、塾や習い事に行っても脱走するんです。どこの無料体験に行っても途中で逃げ出すのでご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」とのこと。
そして迎えた無料体験当日。
ガラッと扉を開けて、Aくんがお母さんと入ってきました。そして、おもむろにカバンから恐竜を取り出して一言。
「これ、△?$ザウルス」
さらに、もう1匹出して、
「これは#♪×ザウルス」
お母さんは、「ちょっとやめなさい」と恥ずかしそうにしていましたが、私は「お母さん、いいですよ」となだめると、次はけん玉を出し技を披露。
しかし、そのあとAくんにプリントを渡すと、Aくんは逃げ出すどころか、非常に集中して次から次へと解いていくではありませんか。
さらに、お母さんと私の雑談(「そんなに儲かってないですよ」というような会話)が耳に入った瞬間、ぱっとこっちを見て「こんなに面白いことをやってるのに? 先生、大金持ちかと思った」と言うのです。面白い子だな~と思いながら、「たぶん、240人に1人くらいしか、キミみたいな子はいないからね」などと会話をして、1時間が経過。すると今度は、カバンからルービックキューブを取り出し、「僕、できるんだよ」と腕前を披露してくれました。
そして帰るときには、「ありがとうございました!」と、しっかり挨拶してくれたのです。
そのときにハッとしました。
「そうか。子どもは見ず知らずの、わけのわからない人のところに連れてこられて、その人に挨拶しなさいと言われても理由がわからないよな」と。
大人は、シチュエーションによって取るべき行動がわかっています。けれども、子どもはシチュエーションがどうこうではなく、自分が好きか嫌いか、損か得かで判断します。だから、子どもであればあるほど挨拶することに理由を求めるのです。
そんな中、Aくんは私のことを、面白い問題をたくさんくれて、丸をつけて褒めてくれたから、自分にとって有用な人間だと判断したのでしょう。だから、次もまたやらせてもらおうと思って、挨拶をしてくれたのだと思います。
自分なりに意味を見いだすのを、気長に待つ
この出来事を機に、挨拶とか靴を揃えるとか、そういう社会性は二の次でいいと考えるようになりました。ニコニコして帰ってくれたらそれでいいです。
また、いわゆる通常の挨拶はなくても、子ども独自の挨拶をしてくれていることもあります。Aくんを例にとると、恐竜を紹介してくれたことが彼なりの挨拶です。「僕はこういうものが好きな人間です」という自己紹介なのです。
今はまだ、人としてできないことがいろいろあるかもしれません。けれども、納得感が生まれたり、それをやる意味を見いだせたら、子どもは必ずできるようになります。私はそのときが来るのを気長に待っているし、そうなると信じています。
*本記事は、『10年連続、算数オリンピック入賞者を出した塾長が教える 「算数力」は小3までに育てなさい』(田邉亨著・ダイヤモンド社刊)から抜粋・編集したものです。