人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1300万PV超、X(旧Twitter)(外科医けいゆう)アカウント10万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)から「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されている。今回は、「山本先生、人体や医学のことを教えてください」をテーマに、弊社の新人編集者による著者インタビューをお届けする。取材・構成/佐藤里咲(ダイヤモンド社書籍編集局)。

血液をサラサラにする「抗凝固薬」を飲んでいる人が手術やケガをしたらどうなる?Photo: Adobe Stock

抗凝固薬とは何か

――そもそも抗凝固薬とは何ですか?

山本健人氏(以下、山本) 患者さんに普段説明するときには、「血液をサラサラにする薬」と説明します。血が固まり血栓ができ、これが血管を詰まらせて人命を奪う病気は多く存在します。例えば、脳梗塞が挙げられますね。抗凝固薬はこれらの病気の発症を防ぐために、血液をサラサラにして血栓ができるのを予防します。

デメリットは血が止まりにくくなること

――脳梗塞など大きな病気を防ぐために有効な薬ですね。逆にこの薬を使うことによってデメリットはありますか?

山本 血が止まりにくくなることです。先ほど説明したように、抗凝固薬には血液をサラサラにする機能があります。これによって、けがや手術をしたときに血液が止まりにくくなってしまうんです。

――では、抗凝固薬を服薬している人が手術をするときにはどうするのですか?

山本 原則、手術の前の一定期間、服薬を中止します。抗凝固薬には多くの種類があり、効果が続く期間が異なるので、何日前から薬を中止すればいいのかが違います。2週間前に止める必要があるものもあれば、前日に中止する必要があるものもあります。それぞれの薬によって医師からいつ止めればいいのかという指示がでるので、それに従う必要があります。

――やはり服薬は止めなければならないんですね。服薬を止めてしまうと、血栓ができるリスクは高まってしまうんですか?

山本 血栓ができるリスクが高まり、病気が悪化するリスクはあります。そこで、手術を行うときは、出血のリスクと血栓のリスク、つまり抗凝固薬を続けるリスクと中止するリスクを天秤にかけ、より少ないリスクの方をとることになります。

リスクを天秤にかけてより良い方法を選択する

――具体的には、どのようにしてそのリスクを決めるんですか?

山本 これは携わる医療スタッフ全員が検討し、最善の方法をそれぞれの患者さんに提案します。例えばですが、脳神経内科の先生や循環器内科の先生は、血をサラサラにし続けて脳梗塞や心筋梗塞などの病気を防ぎたいと考えますよね。
 一方、外科医の立場から考えると、やはり手術中の出血のリスクは避けたいので抗凝固薬の服薬は中止したいと考えます。それぞれの患者さんに合わせてどのやり方をすれば一番リスクが低いのか検討していくことになりますね。リスクをゼロにすることは残念ながらできないので、それぞれのリスクを比較し、より良い方法を患者さんに提案します。

――それぞれの患者さんによって最適な方法が違うのはとても難しいですね。

山本 そうなんです。それぞれの患者さんで正解が異なるので難しい話なんですよ。しかも、ご高齢の方や認知症の方など、認知機能が落ちていると、こういう「リスクを天秤にかける」などという説明を正確に理解するのは難しいです。なので、そのような患者さんが大事な説明を受ける際は、ぜひサポートしてくださるご家族やご友人と一緒に来院していただきたいです。

(本稿は、『すばらしい人体』の著者・山本健人氏へのインタビューをもとに構成した)