「さん」づけにもデメリットはある
ただし、「さん」づけにもデメリットはある。トラブル発生時などにおいて、誰に意思決定や指示を仰いだらよいのかわからず、迅速な行動と解決ができなくリスクがある。緊急時などは、役職呼称による指揮命令型の組織体制のほうがうまく回るケースも多い。
全員が「さん」づけだと誰がキーパーソンなのか、誰に何を相談したらよいのか、誰に決定権があるのかがわかりにくい。とりわけ顧客やお取引先など、外の人たちに無駄なコミュニケーションコストや気遣いを発生させることもある。組織や業務の特性などを勘案して、どちらがよいか議論し検討していきたい。
その上で「さん」づけを普及させたい場合、どのような行動をしたらよいだろうか。
筆者も「さん」づけの職場から役職呼称の職場に転職・異動した経験がある。そのときに実践していた行動を紹介する。
「さん」づけを貫く
自分だけは「さん」づけを貫く。会話でもメールでも、「さん」をつけて相手を呼ぶ。当然だが、いちばんはこれに尽きる。
最初は周りの人たちに違和感を持たれるかもしれないが、やがてそういうキャラだと思われ、気にされなくなる。
一方で共感した人が真似しだし、気がつけば、一人また一人とあなたの後に続き、「さん」づけが定着することもある。
経営理念やミッション・ビジョン・バリューと照らし合わせる
会社の経営理念や、組織や部署のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などを引き合いに、「さん」づけが相応しい行動であることを周りに説明する。
たとえば筆者が以前所属していた企業はグローバルカンパニーになることを標榜していたにもかかわらず職位をつけて呼び合っていた。当時、筆者の知る限りにおいて他の日系グローバル企業や外資系企業は相手を職位で呼ぶことはしていなかった。また、海外のビジネスパーソンが日本のビジネスパーソンと会話やメールをするとき「-san」で相手を呼ぶことも知っていた。
そこで、こう主張した。
筆者はことあるごとにこう説明し、周りの理解や共感を得ていた。
「グローバル」に限らず、「共創」「シナジー」「コラボレーション」「イノベーション」などの経営理念やMVVも目立つキーワードである。それらの理念を実現する上で、役職による違いを意識させるような行為は逆効果であるとも言える。
なぜあなたが役職呼称をしないのかと周りの人に問われたら、それらのキーワードを引き合いにだしながら、堂々と自分の行動の正当性を主張すればよい。
自己紹介や日々の自己開示を徹底する
先述のように、「さん」づけ呼称は、その人の権限や役割を相手に見えにくくするデメリットもある。そのため初対面の相手には役割を含めた自己紹介を丁寧にしよう。
合わせて、日頃から自己開示し合うコミュニケーション文化も醸成していきたい。
他にも、あなたが率先して自己紹介を仕切ったり、社内SNSがあるなら各自のプロフィール情報の詳細化と更新を促したりと、相互理解の促進をしていきたい。役職に込められているよりも、もっと多くの情報を共有できるはずだ。
・あなたから「さん」づけを始めて、浸透させていく
・経営理念などと照らして行動の妥当性を丁寧に説明する
(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)
作家/企業顧問/ワークスタイル&組織開発/『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰/あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/プロティアン・キャリア協会アンバサダー/DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『新時代を生き抜く越境思考』『バリューサイクル・マネジメント』『職場の問題地図』(いずれも技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など、著書多数。趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。