グーグルで働く下~中流労働者
トレーラーハウスで生活する人も

 ソフトウェア産業に就職したからといって、必ずしも実入りが良いとはかぎらない。幅広いサービス業で労働者が置き去りにされており、その多くは請負契約で働いている。警備員の年収は約2万5000ドルである。グーグルなどの企業で働く下流階級や中流階級の労働者の多くは、トレーラーハウスを駐車場に停めて生活しており、車のなかで寝泊まりする者もいる。シリコンバレーには、全米最大級のホームレスの野営地がある。

 かつて中流階級の憧れの地であったシリコンバレーは「寸断され、分断された」状態となり、「ハイテク・コミュニティは、より広大な地域、特に貧しい地域から大きく隔絶している」とパスターとベナーは指摘する。

 結局のところ、テックオリガルヒの台頭から利益を得る者はほとんどいない。

 スタンリー・ビングの小説『Immortal Life(不死の生命)』(2017年未邦訳)は、テックオリガルヒに支配された近未来の社会を描いている。小売、エンタテインメント、農業など、あらゆる市場分野における売上の97%を支配する老練なテック業界の大物たちが、「1つの巨大な、相互に結びついた利益の束」によって、混乱した政府に事実上取って代わる社会である。

書影『新しい封建制がやってくる: グローバル中流階級への警告』(東洋経済新報社)『新しい封建制がやってくる: グローバル中流階級への警告』(東洋経済新報社)
ジョエル・コトキン著、寺下滝郎訳

 民主的政府は単に制約されるだけではない。不要な存在と化してしまうのである。人間の脳にデバイスを埋め込み、全人類に接続された中央のクラウドを制御することで世界を支配しようともくろむ大領主たち。この小説は「近々起こる真実」と副題に謳っているが、あながち的外れとは言えないかもしれない。

 いまこそ自問自答すべきは、テックオリガルヒが考えているような、階層化が進み、社会的流動性が滞り、中央でプログラミングがなされるような未来が、私たちの望む未来なのかということである。テックオリガルヒの思い描く未来像が現実化しそうなこと、またすでにカリフォルニア州でその先駆的な姿がみられることを考えると、これに抵抗することが現代の大きな課題であるといえる。