なかなか難しいお願いごとが、なぜかすんなり受け入れてもらえている。そんな人がまわりにはいないだろうか。どうして、あの人はいつもそうなのか。もしかしてそこには、相手への「伝え方」の違いがあるのかもしれない。そんな誰もが感じていた疑問に見事に応え、日本、さらには中国でもベストセラーになっているのが、『伝え方が9割』(佐々木圭一著)だ。「伝え方にはシンプルな技術がある」と説く、本書のメソッドとは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

伝え方が9割Photo: Adobe Stock

心を動かす言葉は、誰でもつくり出せる

「おかげで好きな人とのデートが実現できた」「提出物の締め切りを延期してもらうことができた」……。著者の佐々木氏のメソッドを知った人からは、そんな声が上がることも少なくないという。

 佐々木氏はコピーライターとして国内の賞を数々受賞、日本人コピーライターとして初めて米国広告賞で金賞、アジアの広告賞でグランプリになるなど、実績を持つ人物。

 CHEMISTRYや郷ひろみのプロデューサーから作詞のオファーが来て、アルバムがオリコン1位になったり、日本人クリエイターで初めてスティーブ・ジョブズお抱えクリエイティブエージェンシーへの留学生にも選ばれた。大学で教壇に立ち、伝え方のメソッドを教える講演も数多く行ってきている。

 そんな佐々木氏が本書で説くのは、「心を動かすコトバには法則がある」ということ。つまり、再現性があるのだ。才能がある人だけが生み出せるのではなく、誰でもつくり出せる、というのである。

 今回は、本書から「ギャップ法」をご紹介しよう。

ギャップをうまく使えば、言葉を名言にできる

 佐々木氏が「オバマ氏、村上春樹氏も使う心を動かす技術」だと記す「ギャップ法」。

 この技術は、数々の人たちを感動させた言葉を生み出しているという。

「ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩だ」
ニール・アームストロング アポロ11号船長

「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!!」
『踊る大捜査線』青島俊作

「お前の為にチームがあるんじゃねえ チームの為にお前がいるんだ!!」
『SLAM DUNK』安西先生

「高く、堅い壁と、それに当たって砕ける卵があれば、私は常に卵の側に立つ」
『エルサレム賞受賞スピーチ』村上春樹
(P.132)

 これらの言葉の共通項は、前のフレーズと後のフレーズでギャップがあることだ。

 逆に言えば、ギャップをうまく使えば、言葉を変えられるという。「ギャップ法」での強い言葉のつくり方を佐々木氏はこう記す。

①最も伝えたいコトバを決める。
②伝えたいコトバの正反対のワードを考え、前半に入れる。
③前半と後半がつながるよう、自由にコトバを埋める。
(P.138)

 事例として、就任演説で人々を感動させたオバマ元大統領の言葉が紹介されている。

「これは私の勝利ではない。あなたの勝利だ。」

 オバマ氏が最も伝えたかった言葉は「あなたの勝利」というものだ。

 しかし、「これは、あなたの勝利だ」というだけの言葉だったとしたら、多くの人を熱狂させただろうか。

 ところが、正反対のワード「私の勝利」が前半に入ったことで、ギャップが生み出されている。だから、人々は感動したのだ。

 最も言いたいことの正反対の言葉を使うことで、「スタート地点が下がる」と佐々木氏は解説している。スタート地点が下がったことで、次の言葉のエネルギーが相対的に高まったのだ。

 こんなふうに、技術を少し意識するだけで、使う言葉が、もっと言えば「伝え方」が大きく変わるのである。

人間の本能に基づいた言葉は、グローバル

 本記事では、「ギャップ」について詳しく紹介したが、佐々木氏は他にも「サプライズ」「赤裸々」「リピート」「クライマックス」が伝え方の質を高めるために重要だという。

 そしてこの5つは、どの国でも、どの人種でも使えるという。人間の本能に基づいた言葉は、グローバルだというのだ。彼はこのように語っている。

言語が違っても、「サプライズ」があると人はドキドキします。
人種が違っても、「ギャップ」があると人は感動します。
地域が違っても、「赤裸裸」なものに人はひきこまれます。
国が違っても、「リピート」があれば記憶に残ります。
文化が違っても、「クライマックス」に注目します。
(P.184)

 実際に本書で紹介されている強い言葉、感動を呼び込む言葉は、日本で生まれたものばかりではない。他国の大統領や小説家などの言葉も使われている。佐々木氏の技術は、世界で使えるということだ。

 さらに佐々木氏のメソッドは、短いフレーズだけでなく、会話でも、長い文章でも使える。本書で紹介されているのが、10分で「強い長文」をつくる3つのステップだ。

 ステップ1 先を読みたくなる「出だし」をつくる
 ステップ2 読後感をよくする「フィニッシュ」をつくる
 ステップ3 飛ばされない「タイトル」をつくる

「サプライズ」「ギャップ」「赤裸々」などを意識しながら、「強いコトバ」を最初に使う。最後に使う。タイトルにも使う。

 これだけでも、文章はグッと変わってくるというのである。

 また、魅力的なメールがどうすれば書けるのか、についても触れられている。

あなたのメールは、あなたが思っている以上に、相手に冷たく伝わっていることを知りましょう。
では、具体的にどうすればいいかです。
感情がそぎ落とされるぶん、コトバで感情を30%増しにするのです。これで、手書きと同じレベルになります。具体的には、語尾です。語尾に感情を加えるのです。
(P.197)
書類ご確認くださいっ。
書類ご確認ください!
書類ご確認くださいね――。
(P.197)

 佐々木氏のメソッドは徹底的に実践的だ。それこそ今日からでも、「伝え方」は変えることができる。

 皆さんも、改めて「伝え方」について考えてみてはいかがだろうか。

(本記事は『伝え方が9割』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。