ところが、言葉の意味をそのまま受けとる特性を持つ「自閉スペクトラム症(ASD)」の人は、文脈や行間が読みとれないため、指示代名詞やあいまいな表現が理解できないことが多々あるのです。

 そのため、「あれ」と言われても何をさしているのかがわかりませんし、「ちょっと」と言われても、それが何分くらいなのかがわかりません。そのため、具体的に何をしたらいいのかがわからず、行動に移すことができません。その結果、「鈍い」「勘が悪い」といった評価をされてしまいがちです。

 しかし、当の本人もあいまいな表現に困惑していて、言われていることがわからないので苦痛に感じているのです。そこで、こうした特性の人と話す際は、あいまいな表現や指示代名詞はできる限り使わないようにしたうえで、主語・述語・目的語を省略せず、かつ具体的でわかりやすい表現を使うように心がけましょう。

良い人間関係を築くには、周囲の「理解と配慮」が大切!
理解ある環境で唯一無二の存在に

 発達障害を持つ人のなかには、他者とのコミュニケーションをうまくとることができない人も多いため、どのように接すればよいのか、相手にとってそれが適切なのか、難しく感じてしまうこともあると思います。しかし、人の性格と同じで、個々の特性を正しく理解し、お互いに「こういう人なんだ」とわかり合うことができれば、日々の仕事や生活、コミュニケーションで失敗することも減らせるはずです。よりよい人間関係を築いていくことができるのです。大事なのは「障害者だから」と先入観や偏見を持たないこと。そして理解する努力を惜しまないことです。

「部長のネクタイ、似合いませんね」失礼な部下に何と返すのが正解?『図解 心と行動がよくわかる発達障害の話』 湯汲英史監修 日本文芸社刊 990円(税込)

 ここまでさまざまなケースに対して、上手な付き合い方や対処の仕方を紹介してきましたが、それらはあくまで「ひとつのアイデア」であり、絶対の正解ではありません。ともに社会生活を送るなかで、ひとり一人がその正解を見つけることができれば、彼らはさらに力を発揮できるようになり、活躍の場も広がっていくでしょう。発達障害を持つ人には、創造性・独創性といったクリエイティブな才能や人並外れた集中力など、優れた一面を備えている人も多くいます。そうした特性を生かせる職種や仕事に就くことで、その道のスペシャリストになることだって夢ではないのです。