6兆円の経済政策も効果がみられない
中国でデフレへの懸念が高まっている。4月、中国政府は経済対策の一つとして乗用車の買い替え促進策を導入した。年式の古いエンジン車から、電気自動車(EV)などの新エネルギー車に買い替える場合、1万元(約20万円)の補助金を支給する内容だ。自動車の過剰な生産能力を活用し、個人消費の底上げを目指した政策である。
続く7月、政府は景気刺激策を拡充した。3000億元(約6兆円)もの巨費を投じ、EVやデジタル家電の需要喚起を狙うものだ。財源の確保には、超長期国債の発行を増やした。すると、EVの売り上げは緩やかに増加し、企業の生産活動は幾分か持ち直した。
こうした政策により、4~6月にかけて、生産者物価指数(PPI)の下落率は縮小した。これは、中国のデフレ圧力の緩和を示唆する変化だ、との指摘もあった。
しかし、8月にPPIは前年同月比1.8%下落した。前月の実績(同0.8%下落)、市場予想(同1.5%下落)を超える物価下落だった。要因の一つとして、川上分野で資材などの価格下落圧力が高まったとみられている。
一方で、8月には消費者物価指数(CPI)が同0.6%上昇し、デフレ圧力が低下したとの指摘も出た。しかし、CPI上昇の中身を見ると、豚肉をはじめ食料品の価格上昇分の寄与が大きく、価格全体が上昇傾向になったとは考えにくい。基調としての物価上昇圧力は停滞している。
食品とエネルギーを除く、コアCPIの変化率は、8月は前年同月比で0.3%だった。23年1月にゼロコロナ政策が完全撤廃されて以降の、最低水準だ。22年3月末~5月末にかけて、上海市がロックダウンした時のコアCPIの水準(前年同月比で1%前後)より低い。
中国経済は総じて、需要の停滞により物価の下落リスクが拡大しているとみられる。だから、冒頭の易綱氏の発言があったのだろう。8月のPPIとCPIは、一連の経済対策が効果を発揮していないことを如実に表している。