安売り企業の競争激化で倒産が増加か

 雇用・所得環境の悪化や、債務返済負担の増大を懸念し、低価格のモノやサービスを求める消費者は増加傾向にあるようだ。同様の現象は、1990年代初めに資産バブルが崩壊した後のわが国でも起きた。

 バブル崩壊後、わが国では株価や地価が下落し、景気の減速から個人消費は減少した。中国製などの安価な製品を扱う100円ショップ、大手小売企業のプライベート・ブランド(PB)へのニーズは増えた。2000年ごろからは100円で食料品を販売する業態も登場した。

 中国での食品のディスカウントストアが増加したのは22年ごろからだ。単純比較はできないものの、格安小売り店の増加ペースからは、中国の消費者の強い節約志向がうかがわれる。

 かつて改革開放路線の下で中国は、世界で最も需要が旺盛で成長期待の高い分野に焦点を絞り、迅速に大量生産体制を整備した。企業家の旺盛なリスクテイクも経済成長を支えた。

 ところが、現在の中国の政策は、経済のダイナミズムを抑圧している。共同富裕策や反スパイ法などを施行して以降、中国から脱出する人や企業は増えた。企業と家計の支出や投資意欲は減少し、バランスシート調整圧力は増大傾向にあるといえるだろう。

 今後、中国政府はEVや太陽光パネルなどで過剰な生産能力を解消するために、再び消費喚起策を打ち出すだろう。政府が国民に節約を呼び掛けていることに歩調を合わせ、過剰生産能力を利用して格安販売で業績拡大を狙う企業も増えるだろう。

 しかし、それがすぐに持続的な景気の回復につながるとは考えられない。中国ではこれまでも基本的に、「需要に合わせて生産を調整する」との考え方は重視されなかった。むしろ、ビジネスチャンスが少しでもあれば、多くの企業が一斉に参入する傾向が強い。

 そのため現在の状況が続くと、中国国内では値下げ競争で企業の粗利は縮小し、最終的に経営破綻する企業が増えるだろう。不動産バブル崩壊の対応が遅れたことに加え、過剰生産能力の累積により中国のデフレは深刻化すると予想する。