チーム内で素晴らしいアイデアが出たとしても、最終的に採用できるのは一つだけ。そのとき重要なのは、採用されなかったメンバーにも納得してもらい、協力を得ることだ。では、意見に隔たりがあるとき、どうすればいいのか。その詳細を教えてくれる本が、3万人に「人と話すとき」の対話術を指導してきた人気ファシリテーション塾塾長の中島崇学氏の著書『一流ファシリテーターの 空気を変えるすごいひと言――打ち合わせ、会議、面談、勉強会、雑談でも使える43のフレーズ』だ。今回は、同書から特別に抜粋。相互理解を基盤にした「コンセンサス・ビルディング」の手法を使って、意見を超えて想いを共有するための対話術を紹介する。
良い意見がたくさん出ても、採用できるのは1つだけ
とても良い意見でも、最終的に採用できないことがあります。
AさんのA案も素晴らしいし、BさんのB案も素晴らしい。でも、1つに決めなければならず、B案に決定した――これはチームの合意によるもので、誰かの独断ではありません。
無事に結論が出せたら終了、となるはず。
しかし、実際はそこからのスタートであることが多いものです。なぜなら、結論を実行する当事者は私たち自身だからです。
B案を実現するために、チームは協力して前に進まなければなりません。その際、Aさんが「私は乗り気じゃない」と協力を拒む困った人にならないよう、合意した時点で納得してもらっておくことが必要です。
コンセンサス・ビルディングの基本とは
「コンセンサス・ビルディング」という言葉があります。「集団の合意形成」の意味で、社会的な合意やチームの合意を適切に築き上げていくための手法です。
政策や公共のルール、会社のプロジェクト、果ては結婚式の段取りから家族旅行の計画まで、コンセンサス・ビルディングはいろいろな分野で必要とされているもので、バラバラの意見をまとめて1つの合意に到達することを目指します。あらゆる会議や打ち合わせは、小さなコンセンサス・ビルディングとも言えます。
メソッドはいろいろあり、専門の本も出ていますが、私が信じている要点があります。
「コンセンサス・ビルディングに不可欠なのは相互理解だ」
「自分をわかってほしい」と願う人間にとって、相互理解はとても重要です。ここまでしばしば「共感」について述べてきましたが、それも「わかっていますよサイン」をまめに出しましょうという提案です。
意見の内容からあえて距離を取る
そこで、熱く語ったのに提案が採用されなかった伊藤さんについて考えてみましょう。
×「とても良い提案でした」
これは伊藤さんの提案に対し、「良い・悪い」の評価をしています。そして、どんなに「良い提案だ」とほめたところで、「結局、採用されなかったじゃないか!」となってしまうことがわかります。
そこで、意見を離れて伊藤さんの想いにフォーカスします。
○「提案の根底にある、伊藤さんの想いが伝わってきました」
人間は、自らの意見を押し通したいのではなく、むしろ自分の想いに共感してくれたチームのために尽くしたい――そんな面があります。
だからこそ、提案を離れて伊藤さんの想いに心を添わせ、共感する。ここがしっかりできていれば、伊藤さんはチームの一員として力を発揮してくれるでしょう。「私の想いを汲んでくれた」と思ったそのとき、人の心は開きます。
厳しい対立の状況の経験で役立ったこと
会社員だった若い頃、私は年に一度の大きな会議のファシリテーターを務めていました。大きな会社だったのでグループ会社も相当な数にのぼります。各社の代表者を集めて本社の方針を伝え、彼らの意見を聞くという会議。
グループ会社の人たちから出るのは、意見というより苦情が大半でした。
ファシリテーターとはいえ私は本社側の人間なので、「グループ会社からの苦情に本社が弁明する」という、例年繰り返される会議の流れが苦痛でした。結局、お互いにモヤモヤして、解決策がないまま終わるのです。
ある年、私は、どんな意見も受け止めようと決めました。言い訳は口にせず、苦情も反対意見もすべて聞いていく、と。
「本社のシステムを変えろ!」という要求はのめないものばかりでしたが、「要求に対してはノーです。でも、要求の根底にあるあなたの想いは伝わっています」と示し続けたのです。
もちろん、本書で紹介してきたあらゆる手を打ったのですが、基本は「すべて聞く」。それだけです。
「わかる」と示し続けることが重要
会議は数日続きましたが、時が経つほどに会場の雰囲気が良くなっていきました。私が「わかる」と示し続けたことで、相手も「わかろう」としてくれたのです。チームの一人ひとりに、相互理解が生まれていきました。
そしてグループ会社同士で考えるようになり、最後にはみんなで問題を解決する策が出てきました。最高のゴールです!
会議がすべて終わった後、同僚にこう聞かれました。
「中島さん、どんな魔法を使ったのですか?」
「いいえ何も。ただ、わかる〜! ってうなずいていただけですよ」
相互理解はすべてを癒す―さまざまな方法やテクニックはありますが、すべて人間と人間のやりとりなのです。