「あなたの会社はどんな人を採用するかを決めていますか?」――そう語るのは、ワンキャリア取締役の北野唯我さん。「常に人手不足」「認知度が低い」「内定を辞退されてしまう」「外資系との給与差が開いている」といった多くの採用担当者、経営者の悩みを解決するため、北野さんが執筆したのが、著書『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』です。これまで属人的で全体像が見えなかった採用活動を構造化し、3000社以上の企業の採用支援実績、180万人の求職者のデータに基づいた「新しい採用手法」を紹介した一冊です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集して紹介します。
まずは、どんな人を採用したいかを決める
採用活動の土台としてやるべきこと。そのひとつが、「人事ポリシーの言語化」だ。
人事ポリシーとは、人事の軸となる考え方を指すもので、人事施策を実行する上での価値基準である。たとえば、正社員・契約社員・無期雇用パート・アルバイトといった自社で働く人に対して、どのような採用基準を設けるのか。どのような報酬制度を設けるのか。事業づくりにも投資判断基準があるように、組織や採用を考える上での判断基準が人事ポリシーである。
人事ポリシーは、大企業でも、十分に言語化されていないことがある。あるいは、担当者によって認識にばらつきが出てしまっていることもある。創業間もないスタートアップ企業では、そもそも人事ポリシーを設定していない、設定する必要性を認識していないケースも多い。
しかし、採用戦略を考える上で、人事ポリシーは必須になる。法律でたとえるならば、人事ポリシーは憲法のようなものであり、制度をつくる上での土台となる。
図は、人事ポリシーをわかりやすく整理するためのフレームワークだ。
人事ポリシーは、次の5つの要素で整理できる。この5つの要素のうち自社がどこに強弱をつけるかで、組織や採用の特徴は形づくられる。そして、それぞれ2択のうち、どちらを自社として重視するかを考え、組み合わせていく。
人事ポリシーの構成要素
①組織づくりの方針:新卒中心か、中途中心か
②登用・報酬の方針:年功序列的か、実力主義的か
③業務管理の方針:規律・チーム重視か、裁量・個人重視か
④雇用の方針:終身雇用型か、転職許容型か
⑤配属の方針:ジョブローテ型か、職種・職能型か
たとえば、リクルートとサイバーエージェントは、組織づくりは「新卒中心」で同じだが、リクルートは転職や独立を前提として育成するのに対して、サイバーエージェントは終身雇用を前提としてきた。
あるいは、(私の出身業界でもある)広告代理店の電通と博報堂も、どちらも新卒中心の年功序列的組織で長らく運営されてきたが、電通は規律・チームを重視するのに対して、博報堂は裁量・個人重視的だといわれていた。完全にどちらか一方で100%分けられるものではないが、おおまかな方向性は分類できる。
人事ポリシーは事業特性と経営者の思想で決まる
人事ポリシーのパターンを分析すると、その内容は
・事業特性
・経営者の思想
によって決まっていることが多い。いくつかパターンを挙げてみよう。
・業界のガリバー企業
先に挙げた、リクルートやサイバーエージェントが新卒中心型なのは、彼らが扱うのはIT/情報産業で、産業の歴史が新しいからであり、両者とも業界のガリバー的存在だからだ。
自社が業界で最大の知見を持っている領域が多いため、中途採用で外部から知見を取り入れる必要性が相対的に低い。業界や商材に若者観点が活用しやすく、新卒入社者が短期・中期的に活躍しやすい環境ともいえる。加えて、両社は自社で人材を育成するメソッドがあるため、中途採用でわざわざ高い費用を払う必要もないのだ。
・コンサルティングファーム
一方で、最近人気が高まっているコンサルティングファームは、転職や退職を許容しつつ、成果をすぐに報酬に還元できる実力主義型の人事ポリシーで設計されていることが多い。これは、古くからある産業であること、また、同業内での転職や独立が激しく、工数ベースのフィーを請求するビジネスモデルであることが理由である。
・就職人気ランキングの常連企業
新卒での就職人気ランキングの常連、総合商社や大手ディベロッパーは、責任者が扱う商品の金額が巨大で、リスク事項も非常に多い。また、関係するステークホルダーが多いため、ミスを最小化して効率的に動ける「規律・チーム重視」であることが多く、「年功序列的」が多い。
・伝統的日本企業
昔ながらの伝統的日本企業は、すべてが図の左側の列の要素になっており、急速に右側の列への変化を求められているケースが多い。
つまりこれまでは、
①新卒中心で、
②年功序列的で、
③規律・チーム重視で、
④終身雇用型で、
⑤ジョブローテ型
だった人事ポリシーを、中途割合を増やしたり、報酬を実力主義的にしたり、職種・職能別採用を増やしたり、といったケースである。言い換えると、日本企業の人事変革とは人事ポリシーの変革だともいえるだろう。
以上のような事業特性という制約条件を踏まえた上で、企業経営者やCHROが、どこにどのような強弱をつけるかがポイントとなる。創業間もないスタートアップの場合、そもそも人事ポリシーが設定されていないこともあるので、その場合は早い段階で、人事ポリシーを設定しておくことをおすすめする。
(本記事は『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』を元に抜粋・編集したものです)
株式会社ワンキャリア 取締役 執行役員CSO
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に新卒で博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。米国・台湾留学後、外資系コンサルティングファームを経て、2016年ワンキャリアに参画、現在取締役 執行役員CSO。作家としても活動し、デビュー作『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版)など、著作の累計部数は40万部を超える。
ワンキャリアは2021年10月、東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場。累計3000社以上の企業の採用支援実績があり、累計180万人の求職者に利用されてきた。新卒採用領域の採用プラットフォーム「ONE CAREER」は2020年から4年連続で日本で2番目に学生から支持され、東京大学、京都大学の学生の利用率は95%となっている。