「なんとなく採用をしていませんか?」――そう語るのは、ワンキャリア取締役の北野唯我さん。「常に人手不足」「認知度が低い」「内定を辞退されてしまう」「外資系との給与さが開いている」といった多くの採用担当者、経営者の悩みを解決するため、北野さんが執筆したのが、著書『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』です。これまで属人的で全体像が見えなかった採用活動を構造化し、3000社以上の企業の採用支援実績、180万人の求職者のデータに基づいた「新しい採用手法」を紹介した一冊です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集して紹介します。

「やりたいことはたくさんあっても人が集まらない」

 求職者の価値観、経済環境、情報インフラ。この3つの変化によって、「人を集めて、定着してもらうこと」にかかる企業のコストは著しく増加した。人口減少、労働者からの要求、競合の条件……すべてが企業の採用活動にとっては、マイナス方向に進んでしまった。

 そして「人集め」は、経営における喫緊の課題になった。事業・数字達成の最大の障壁が「人集め」になってきているのである。
 特に地方企業や中堅中小企業の経営者と話すとそれは顕著だ。「やりたいことはたくさんあっても人が集まらない」という声をよく聞く。
 これまでであれば、賃金さえ上げれば採用できた業界や企業でさえ、物理的に人の数が足りていない状況になっている。伸ばしたい事業や既存事業に投入する人材がいなければ、伸ばしたい事業も伸ばせないし、既存事業すら閉鎖せざるをえなくなる。

 このマイナス方向の変化に対して、企業ができることは2つしかない。
 まずは「給与や待遇を上げる」こと。こちらはわかりやすい。
 もうひとつは、「給与や待遇“以外”の、働く理由を強化する」こと。当然ながら、人は給与や待遇“だけ”で仕事場を選んでいるわけではない。一緒に働く人との相性や、成長環境、職場へのアクセス、世間や社員からの評価なども総合的に判断し、仕事場を決めているからだ。単純にいうと、世の中的に評判が良い企業で働きたいと思う人は、非常に多く存在する。
 この2つの要素を満たすことができる会社を、本書では「儲かって、企業イメージが強い会社」と定義している。

企業イメージはあらゆる人事課題を解決する

 私は仕事柄、採用に関して様々な業界の経営者やトップの方と話す機会がある。その際に「採用で一番重視すべきことは何か」と聞かれたら「企業イメージ」だと断言している。一度企業イメージが構築されると、それは採用において圧倒的なメリットとなる。
 採用の成果は、短期的には「オペレーション能力」で決まるが、長期的には「企業イメージが10割」と言い切ってもいい。勝ち続ける仕組みづくり=企業イメージの管理だからだ。

 さらに、企業イメージが強いことは、他の人事課題にも貢献する。人事の基本機能は「採用」「育成」「配置」「評価」「報酬」「代謝」の6要素あるといわれるが、企業イメージは、これらの人事の問題を間接的に解決する。

 たとえば、すぐに人が辞めるという「代謝」の問題にしても、企業イメージが強い企業であれば、問題はそれほど深刻にはならない。なぜなら、退職率が高くても、すぐに人を補填できるからだ。具体的には、人気ITメガベンチャーや外資系コンサルティングファームは離職率が通常企業より高い傾向にあるが、企業イメージが強いため、すぐにそのポジションは別の人で埋まる。

「売上はすべてを癒やす」という言葉があるが、「企業イメージは人事のすべてを癒やす」と言っても過言ではないほど、効果は絶大なのだ。

 三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、野村総合研究所(NRI)、サイバーエージェント、メルカリ、ボストン コンサルティング グループ、リクルートホールディングス……一般的に採用に強いといわれる大企業の中でも、さらに「とりわけ採用に強い」会社が存在する。これらの会社は規模も、業界も、ビジネスモデルも違うが、共通点は「企業イメージへの投資」を積極的に行っていることだ(この際の投資の定義とは、マスマーケティング等の金銭面のみの投資を指すのではなく、数ヶ年単位での人的リソースへの投資も含んでいる)。