「あなたの職場では、仕事のお作法が無駄なハードルになっていませんか?」
そう語るのは、これまでに400以上の企業や自治体等で、働き方改革、組織変革の支援をしてきた沢渡あまねさん。その活動のなかで、「人が辞めていく職場」には共通する時代遅れな文化や慣習があり、それらを見直していくことで組織全体の体質を変える必要があると気づきました。
その方法をまとめたのが、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』です。社員、取引先、お客様、あらゆる人を遠ざける「時代遅れな文化」を変えるためにできる、抽象論ではない「具体策が満載」だと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「お作法を大事にする職場」の問題点について指摘します。
作文時のお作法にこだわる組織
顧客向けや社内の提案資料や議事録、稟議書、週報や日報、チャットやメールなど、当世のビジネスパーソンは大きなものから小さなものまで日々何らかの作文行為に追われている。
作文に時間をかけすぎるのはいかがなものかと問題提起したが、作文におけるお作法へのこだわりも、その負担を増長している。
筆者はいわゆるJTC(Japanese Traditional Companiesの略。お堅い組織文化が変わらない日本の伝統的な企業を揶揄した表現)で勤務した経験が長いが、20代の若手の頃、2社目として勤めた企業でお作法の洗礼を受けた。
その企業では下記のような社内文書のお作法が事細かに決められていたのだ。
・件名や日付の表記の仕方
・出だしと締めの表現
・大項目から順に1.2.3.→(1)(2)(3)→ ①②③と表記するなど、箇条書きにするときのナンバリングの表記方法や序列
・添付資料を示すラベルの表記方法や位置(「添付」と書くと、「別添」と書くよう上長から指摘された)
など、さまざまなお作法が決められていて、逸脱は許されなかった。
お作法への対応に何時間も使うことも
上記のルールは明文化されていたわけではなく(どこかに書かれていたのかもしれないけれど)、筆者は上長からの差し戻しと指摘で都度これらのお作法を知らされた。
そんなこんなで入社してからしばらくは、部長への説明資料一つ書きあげるのでさえ2時間も3時間もかかった。
筆者がその前に勤めていた会社は「伝わればよい」「失礼でなければよい」くらいのノリであり、書き方や細かな表現の仕方にとやかく言われたことはなかったため、新鮮であるとともに大きなカルチャーギャップを感じたものだ。
お作法は文書の書き方だけに限らない。会議で最初に口火を切るのは職位が最上位の人でなければならない、役職者が発言する前に担当者が意見を言ってはならないなど、暗黙のお作法を発動させている企業もある。
お作法へのこだわりは共創を阻害する
お作法にも合理性はある。
慣れてくれば効率がよい。余計なことを考えずに、お作法に従って作文または発言さえすれば何も文句は言われない。はじめて見る文書であっても、どこをどう読めばよいのか、どの箇所を確認すればよいのか瞬時にわかるため、意思疎通の非効率やミスも発生しにくい。
ひとたび慣れてしまえば、あるいは同質性の高いコミュニティにおいては、ローカルルールも決して悪くないのである。
とはいえ正直、当時の私はそれらのお作法を窮屈に感じていた。
まどろっこしい、時間がかかる、非効率極まりない。それに、いちいち上長から赤ペンで表記や表現のダメ出しをされると、まるで子ども扱いされているような惨めな気持ちになってくる。尊厳が損なわれ、モチベーションも上がらない。
そして中途採用者はもちろん、社外の人などと共に仕事をする機会が増える昨今、過度なお作法へのこだわりと差し戻しは、心地よくかつテンポのよい共創の足かせになる。
自社の常識は、世間の非常識だったりもする。自分たちのお作法へのこだわりが相手を不快にさせてしまうことさえある。相手にローカルルールを強要した結果、内向きな社風だと思われ敬遠されるリスクもある。