知識が豊富で、理路整然とした話し、的確なアドバイスができる。これが一般的な「頭がいい人」のイメージではないだろうか。知的で、「この人の言うことなら信頼できる」と思わせてくれる人とも言える。コンサル22年の知見を詰め込んだ『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者であり、現在はコンサルティング会社とAIの関連会社を経営する安達裕哉氏は、そんな「頭のいい人」であるための大事な条件として、「冷静であること」を挙げる。その理由はなぜか。本記事では、安達氏の著書『頭のいい人が話す前に考えていること』をもとに解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

頭のいい人が話す前に考えていることPhoto: Adobe Stock

「キレる人」と思われるとすべてが台無し

「怒りのあまり、つい言い過ぎてしまった」「冷静さを欠いて、声を荒げてしまった」

 そんな経験をしたことがある人も少なくないだろう。

 筆者ももちろんある。家族ならまだしも(家族ならいいというわけではないが)、相手が仕事関係者の場合は最悪だ。

 後から「もっと冷静に話せばよかった……!」と、何日も後悔する羽目になる。

 なぜなら、大抵言わなくていいことまで言ってしまっているからだ。たとえそれが“正しい怒り”だったとしても、失言してしまうとすべてが台無しである。

 安達氏は、「感情的になったら、その時点で負け」と指摘する。

 安達氏は若手だった頃、次のような体験をしている。

 ある企業の「改善活動」を見に行くと、「声が小さい!」と叱咤する声が部屋中に響いていた。新人がとある役員に“声が小さい”という理由で何度も発表をやり直しさせられていたのだ。すると、その様子を見ていたリーダークラスのひとりが役員に対して「もうそれくらいでいいでしょう!」と大声で怒鳴って制したのだという。

社長は怒鳴ったリーダーの話に理解を示し、役員には「やりすぎである。本来の趣旨と違うはず」と反省を促しました。
しかし、社長はリーダーに対してもこう言ったのです。
「冷静さを失うとは何事だ。そのようなことではリーダーを任せられない」
社長の言う通りでした。彼は新人をかばっただけでしたが、その事件のあと、他の社員が件のリーダーを見る目が、少し変わってしまったのです。(中略)「あのリーダーは、(役員と同じ)キレる人だったんだ」と皆に判断されてしまったのです。(P.46)

 部下をかばっての行動なのだから、リーダーからすると理不尽な話である。

 しかし、安達氏はその理由を次のように語る。

「キレる人」には理由はどうであれ皆、近寄りたくないのです。(P.47)

頭のいい人は感情的にならない

 こんな時、「頭のいい人」はどうするのか。

 安達氏は「頭のいい人は“キレること”“感情的になること”でどれだけ大きな損失を被るかを知っています」と語る。

怒っているときは、誰でも頭が悪くなるのです。怒っているときに下す判断は、まず、間違っていると考えた方がいいでしょう。(P.47)

 もちろん、頭のいい人だって感情的になることはある。

 しかし、その場合も頭のいい人は「すぐに反応するのではなく、感情をコントロールし、冷静になって考える方が、メリットがあることを知っていて、その術を身につけている」と、安達氏は説明する。

つまり“話す前にちゃんと考える”ということは、感情に任せて反応するのではなく、冷静になることだ“と言い換えられます。(P.48)

 これは、アンガーマネージメントの手法として「腹が立ったら6秒待ちましょう」と言われていることと通じる。

 では、キレずに冷静でいるためにはどうしたらいいのだろうか。

①すぐに口を開かない
②相手がどう反応するか、いくつか案を考えて比較検討する(P.49)

 怒りを覚えたときにすぐ口を開くと、先ほどの事例のリーダーのように、感情が理性を上回って「役員を怒鳴り返す」という不利益な選択をしてしまうかもしれない。

 だから、①の「すぐに口を開かない」ようにすることで、考える余地が生まれるのだという。

 そして、②は「ここで、怒鳴ったらどうなるのか?」を想像するだけではない、と安達氏は解説する。

・叱られている新人を、別室に一時的に避難させる方法はないか?
・役員の注意を他にそらすことは可能か?
などと別の案をたくさん出してみることも含まれます。
あれこれ代案を検討しているうちに、怒りは静まります。(P.50-51)

 確かに、時間を置くと人は冷静になる。筆者がそれを実感したのは、コロナ禍になってからだ。

 対面での仕事が減り、テキストコミュニケーションが圧倒的に増えた。筆者的には、これが非常に良い効果を発揮した。

 何かムッとすることがあって返事を書いたとして、送信前に一度見直していると、だんだん冷静になってくるのだ。

 一度、書き出すことで吐き出しているのもいいのかもしれない。

 送信ボタンを押す前に、他の伝え方を思いついたり、「もういいや。流してしまおう」と思ったりできるようになった。

 冷静であることで、無駄に争いの種を増やさずに済むことを実感したのだ。

 これを対話の中でも実践できるようになりたいものだ。

感情的になっているときは「反応しない」が正解

 安達氏は、頭のいい人について次のように語る。

頭のいい人は怒っているときだけでなく、うまくいっているときほど、リスクはないか? 見落としはないか? などと、冷静に考えることができます。頭のいい人ほど、感情的な自分に自覚的になり、冷静になれるのです。(P.52)

 そうは言っても人間だもの……と思う人もいるかもしれない。しかし、対応は非常にシンプルだ。

「口はわざわいの元」であり、話す前には十分に注意すべきです。場合によっては取り返しのつかない発言になることがあるからです。
何か言いたくなったときほど、逆に口を閉じる。
“とにかく反応しない”ということが大事なのです。(P.53)

 感情を蔑ろにするのではなく、とにかく「反応しない」。感情が落ち着いて、冷静になってからことを進められるのが「頭のいい人」であるのだ。

 自分は少し感情的になりやすいと自覚がある人は、「とにかく反応しない」ということを徹底してみてはいかがだろうか。