誰かと話をしていて「この人、本当に頭がいいなあ」と思った経験はないだろうか。では、そんなふうに他者から思ってもらうには、どうすればいいのだろうか。話術? それとも、知識量アップ? コンサル22年で得た知見を詰め込み、2023年と2024年のビジネス書年間ランキングで2年連続1位を獲得した著書『頭のいい人が話す前に考えていること』で「頭がいい人になるには、“ちゃんと考える”ことが大切で、そのためには“ちゃんと聞くこと”が必要不可欠」と指摘する。“ちゃんと聞く”とはどういうことなのだろうか。本書の内容をもとにその理由を解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

頭のいい人が話す前に考えていることPhoto: Adobe Stock

誰からも慕われる人がしていたこと

 筆者が以前会社員をしていた頃、クライアントの一人に、非常に素敵な女性がいた。

 誰からも信頼を寄せられている人で、筆者もクライアントとしてはもちろん、人として大好きだったし、憧れの女性であった。

 一度、その方に「どうしてそんなに人からの信頼を得られるのですか」と尋ねたことがある。

 その方は「いやいやそんな……」と謙遜していたが、こちらから理由を深掘りしていくと「人の話はちゃんと聞くようにしている」とおっしゃっていた。

 いくら相手の話をちゃんと聞くといっても、相手の話によっては「いやいや、そうじゃなくて!」と反論したくなってしまうこともある。

 しかし、その女性は、どんな難しい相手でも、理不尽なことを言ってくる人でも、一旦相手の話をよく聞くのだと教えてくれた。

 確かに、私の話や提案に対しても、いつもうんうんと頷きながら聞いてくれる人だった。

 誰に対してもその態度を貫いているからこそ、非常に人から信頼されるのだと実感した出来事だった。

人の話を「ちゃんと聞く」方法

 人の話を聞くというのは、思いのほか難しい。

 人は自分に興味のない話は聞き流してしまったり、自分の理解できることだけ切り取って都合よく聞いてしまったりすることもある。

 本来であれば「聞く」というのは非常に大切なことであり、安達氏もコンサルタント会社に入社したときには上司から「とにかく相手の話を積極的に聞け」と言われたそうだ。

ちゃんと考えるためには、ちゃんと人の話を聞くことが必要不可欠で、実際、周りから慕われている有能な人たちは、周りの人の話をちゃんと聞く人ばかりでした。
自分が話すことよりも、相手の話を聞くことに比重を置ける人が、信頼を集め、結局、自分の話も聞いてもらえるのです。(P.222)

 では、いったい知的で慕われる人は、どのようなことを考えながら話を聞いているのだろうか。

 安達氏によると、人が誰かの話を「聞く」ときに考えていることは、以下の2種類に分かれるという。

(1)自分の言いたいことを考えながら聞く
(2)相手の言いたいことを考えながら聞く

自分の言いたいことを考えながら聞いてはいけない

(1)の「自分の言いたいことを考えながら聞く」は、人の話を聞いているときに、「反論」で頭がいっぱいになってしまうなど、次に自分が話すことで頭がいっぱいになっている人のことだ。

このような人は「人の話を否定し、自分が勝った気になる」ために人の話を聞いています。人間としてまだ成熟していない、子どもの態度といっていいでしょう。(P.230)

 あるいは、「うまいことを言おう、悩みを解決してやろう」と思いながら聞いている人もいるという。

反論に比べるとマシですが、こういう人は“教えてやろう”という気持ちが先行し、相手の話をちゃんと聞いておらず、成熟した知的な態度とはいえません。(中略)
これらの態度は相手のことを考えているようで自分のことを考えながら聞いているので、相手からは自己中心的に見えます(P.230-231)

「自分の言いたいことを考えながら聞くなんて、そんなことするわけない」と思っていた人も、「あ、これ、私も意外としているかも」と思った部分はないだろうか。

 特に意見が割れたとき、自分の主張を通したいと思っているときなどは、無意識のうちにそういった聞き方になってしまっていることが多いように感じる。

「相手の言いたいことは何か」を考えながら聞くのが大事

(2)の「相手の言いたいことを考えながら聞く」は、余計な口を挟まず、“言いたいことはなんだろうか”と考えながら、まず相手の話を正確に理解しようとする態度だ。

話す側の立場に立てば、相手がこのような態度で聞いてくれると“自分の話を正確に受け取ってくれた”という感覚になります。
その上で相手からも“学ぼう”という意識で聞くと、さらに相手から信頼されます。(P.231-232)

 安達氏はこういった態度には「話す相手への敬意がベースにある」と語る。そのことにより、相手も話しやすく感じ、「対話している」という感覚になり、より深い信頼感が生まれるというのだ。

 安達氏は、学生時代の恩師に「もし今、“人生がそれほどうまくいっていない”と思うなら、人の話をよく聞くだけで、人生は好転するよ」と教わったそうだ。

 では、どのような態度で話を聞けば、人生を好転させるほどの「人の話をよく聞くための態度」になるのだろうか。

知的で慕われる人がしている「聞く態度」

 安達氏は、知的で慕われている人の聞く態度として次の5つを挙げる。

 ①肯定も否定もしない
 安易に「わかった」と言っても、「違う」と言っても嫌われる。ちゃんと聞く人は肯定も否定もせず、「そうなんですね」「なるほど」と相槌を打ちながら、まずは相手に気持ちよく話をさせる。

 ②相手を評価しない
 相手の話を評価すると、知らず知らずのうちに態度に出てしまう。相手のことを評価しないためには「良い」も「悪い」もなく、相手がそう思っている、という話だと割り切って聞くのが大事。

 ③安易に意見を言わない
「どう思う?」と聞かれても、すぐに自分の意見は言わないことが大事。相手はあなたの話を聞きたいのではなく、安心したいだけ。「おっしゃる通りだと思います」などと相手の期待する返事をしながら、まずは相手の話をすべて聞き出す。

 ④話が途切れたら、むしろ沈黙する
 相手の話が途切れたら、まずは沈黙して、相手が話し出すのを待つ。沈黙を怖がってはいけない。

 ⑤自分の好奇心を総動員する
 相手が一見普通の人であっても、みんな何かしら面白い話を持っていて、かつ何かのプロであるという意識を持って聞く。相手の話がつまらないと感じるなら、それは自分の好奇心が足りないのだ。

そして相手の話を最後まで聞き終えたら「相手は私に何を言ってほしいのだろうか」と考えるのが、知的で慕われる人です。(P.235)

 相手が求めているのが、共感なのか、解決策なのか、慰めてほしいのかなどを考える。

 相手の話をちゃんと正確に聞けていれば、相手が自分にどのような会話を期待しているのかわかるというわけだ。

知的で慕われる人への一歩は「聞くこと」から

 5つの話を聞く態度を徹底するには、慣れるまで時間がかかりそうだ。

 しかし、きっとこの態度を身につけることができれば、仕事でもプライベートでも人間関係がうまくいくだろうというのは想像に難くない。

「何を話すか」よりも「何を聞くか」であり、きちんと聞き取れていれば、自ずと話すことも決まってくるのだ。

 今よりももっと「知的で慕われる人」になりたい人は、さっそく試してみてはいかがだろうか。